1月3日

2003-01-03 vendredi

元旦は恒例の篠山の春日神社の「翁」で明ける。
観能ののち地元の芦屋神社に戻り、破魔矢を納めて、初詣。
家に戻ると午前四時。そのまま爆睡。
10時に起きて、ぱたぱたと身支度をして新幹線に乗って新横浜へ。
実家で母、兄と三人だけの静かな正月をする。
父のいない正月というのは生まれてはじめてのことである。
三人でひとしきり内田家と日本の来し方行く末について語り合う。
兄上のご商売はますますご繁昌のようで、めでたい限りである。

二日は上野毛のエックス義母のもとへお年賀に伺う。
離婚した妻の母のもとにお年賀に伺うというのを訝しむ向きもあるが、仮にも私にとっては13年間にわたって「母」と呼んで親しんだ方である。離婚ごとき私事によっておいそれと無音にすることのできぬ義理というものがある。
そのエックス義母のところでるんちゃんといっしょにお昼ご飯をご馳走になる。
るんちゃんはついに「就職」をしたというので、いろいろおたずねしてみる。高円寺のライブハウスのブッキングマネージャーというなかなか愉しそうなお仕事である。食って行くにはまだまだ前途遼遠であるが、貴重な社会経験である。ぜひがんばって頂きたい。
今後るんちゃん企画のイベントがあればこのホームページでもアナウンスするので、中央線沿線にお住まいの読者のみなさんはどうかごひいきに。

4時に自由が丘で平川克美、石川茂樹両君の「旧アーバン同僚」と久闊を叙す。
平川君のリナックス・カフェ、ビジネス・カフェ・ジャパン、石川君のD2E2の繁昌ぶりについてご報告をきく。私はそれらの会社の株主であるばかりか、どれかの会社の役員でもあるはずなので、ときどき「どないいだ、もうかってまっか」というようなことを聞くのである。
さすがにこの壮絶な不況の中なので、株式店頭公開で創業者利益をがぼっと手にして・・・という夢は遠のいてしまったようである。そのお金で芦屋あたりに土地を買って、能舞台付きの100畳ほどの合気道の道場を建てようと計画していたのであるが、皮算用はなかなか思い通りにはゆかないものである。
そこに兄上も加わってひとしきりビジネス話に花が咲く。
業界五位になったという兄上のビジネスがどうもいちばん好調のようである。私はこの兄上の創業時のただひとりのバイト社員であり、株主でもあるので、あの小商いがいつのまにか社員百人、年商数十億と聞くとうたた感慨を禁じ得ないのである。
私自身はまったくビジネスセンスのない人間であるが、なぜか兄と親友が実に卓越したアントレプレナーであるので、門前の小僧的にその話を聞いているだけで、いろいろとお勉強をさせていただけるのがありがたいことである。
それにつけても思うのは、大学は既存のビジネスモデルにはなじまない、ということである。
これについてはいずれ教授会で自己評価委員長として演説をぶたないといけないので、いろいろと研究をしているところなのであるが、営利企業と同じモデルではやれないということだけは今回のお話を聞いてはっきりした。

大学はあまりにファクターが多すぎるのである。
例えばクライアントが二種類いる。
一つは「受験生」(およびその扶養者)であり、一つは卒業生を受け容れる「社会」(主に採用企業)である。
この両者が大学に期待しているものはまったく違う。
ありていにいえば受験生が大学に求めているものは、社会的需要よりも10年くらいのタイムラグをもって「遅れている」のである。
受験生がその人生を一生保障してくれるはずのスキルを会得して大学を出るときにすでにそのようなスキルに対する社会的需要はなくなっている、ということが現に起きているのである。
受験生とその親たちは、十年後にどのような知的能力が必要になるか、ということではなく、五年前にはどのような知的能力が高く売れたかを基準に大学を選んでいる。
こういうマーケットを相手に商売をするというのは、ほんとうに気疲れする。

三日は多田先生のお宅でに恒例の新年会。
以前は隔年で原宿の南国酒家で開催していたのであるが、奥様がなくなられたあとしばらく新年のお祝いを自粛していた。そのうち学生たちが先生のお宅に伺っているという話を伝え聞いて、「じゃあ、私も」とばらばらと先生のお宅を訪れる門人が増えて、今年は気錬会と自由が丘道場と女学院が三日に集まった。文字通り立錐の余地もない盛況ぶりで、気錬会の諸君などは重なり合うように坐っていた。
ひさしぶりに亀井先輩、笹本先輩にお目にかかって、ご挨拶。
かなぴょんは着物で内古閑くんと一緒。
主将の木野くんは拙著のご愛読者で、お持ち寄りの本にありがたくネコマンガを描かせていただく。
これまた着物姿のゆりさん@横浜からは開口一番「センセー、私、サンキュウとりました」というご挨拶を頂いたので、「予定日はいつなの?」というお約束のボケで応じる。
人混みに紛れ込んでワインをのみ、多田先生のアルバムを拝見し、先生の作られる「天狗舞」入りのお雑煮をいただき、談論風発。さんざん大騒ぎして退散する。