恒例の「年末フグ大会」に向かっている途中、梅田の構内で携帯が鳴った。
出ると『ミーツ』の江さんである。なんだろうと思っていたら、「今日が締め切りなんですけど・・・」というご連絡である。
てっきり「年内」だと思ってまだ一行も書いてない。(「年内」と言ってもあと一日しかないんだけど)
へこへこ謝りながら、締め切りを一日延ばしてもらう。
「いつもニコニコ現金払い」と「いつもニコニコ守る締め切り」はウチダの少年時代以来変わるところのないモットーであるが、ここにきて立て続けに締め切りを破っている。
忙しいからという言い訳は通らない。やはり気が緩んでいるのであろう。
なぜこのような破滅的状況で「気が緩む」ということが起こるのであるか。
それを「売れてきたので慢心している」というふうに捉えるひともあるだろうが、それは違う。
ウチダは「売れてきたから慢心する」ようなヤワな人間ではない。
私は「売れてなくても慢心している」人間である。
だから、この「気の緩み」はむしろ自衛的なものであろうと私は考えるのである。
窮地にいたってカリカリすると判断を誤ることが多い。
スケジュールがタイトになって、何がなんだから分からなくなったときほど、とりあえずフグなど食し、浅田次郎など読みながら、ぼおっとしていることが必要なのである。(いかにも言い訳じみているけど)
しかし、そういつまでもぼおっとしていられないので、これから『ミーツ』の原稿を「一気書き」する。そののち大学に行ってホームページを更新して、それから正月の荷物を宅急便で送り出して、それから恒例の春日神社の『翁』におでかけする予定。
しかし、それはあくまで「予定」であるので、原稿が書けなかったら、今年はどこにもゆかず、誰にも会わず、飲まず食わずでキーボードを叩きながらの年越しになる。
と書いたのが数時間前であるが、こうやってホームページが更新されているということは、無事に原稿はメールで送ってしまったのである。2時間で書き飛ばしてしまったが、こういう雑な仕事の仕方をしていると必ずや天罰がわが身に下るであろう。
ともあれ、無事に大晦日を迎え、ここに晴れて物書き廃業宣言をすることができるのは欣快の至りである。
本日をもちまして内田樹は営業を終えました。長らくのご愛顧に心より感謝申し上げます。
今後は専門研究にかかわるもの以外の執筆依頼はすべてお断りさせて頂きます。また専門研究にかかわるものでも「いそがしいから、ダメ」という理由でにべもなくお断りする場合がございますので、その場合は悪しからずご了承下さい。
では、みなさまさようなら。
(2002-12-31 00:00)