12月10日

2002-12-10 mardi

ようやく風邪が治りかけてきた。
朝御飯もたべずに、パジャマの上にドテラをはおって、ずるずるコーヒーをすすりながら、そのままパソコンの前にへたりこむ。
こういうときはパソコンが私の「主体」であり、私の頭や手足はその「パーツ」であるような気分になってくる。
バイオメカノイド状態である。
そういうのがウチダはほんらい大好きなのであるが、あまり続くと、「もっと人間らしく生きたい」という反動的な欲求が湧き起こることもある。
「落葉をめでつつ街を散策する」とか「冬のコートを探しながらウィンドー・ショッピングをする」とか「お茶をしながら買ったばかりの小説を読み始める」とか、そういうこともたまにはしてみたい。(「たまに」でいいから)

だが、年内に角川書店の原稿を仕上げないといけない。(「今秋刊行」などという大嘘の広告をホームページで打ってしまったが、原稿がいつまでたっても届かないのでさすがに温顔のY本さんも不安を隠せない)
しかし年末は24日から鹿児島大学で集中講義があるので、原稿書きはできない。ということは残された日数はあと二週間。

年内に訳稿は必ずお渡ししますと中根さんに誓ったあの『困難な自由』の全面改訳はどうなったのであろう。

年内に原稿はかならずお渡ししますと渦岡さんに誓ったあの『身体論』の原稿はどこへいってしまったのであろう。お母さん、あの原稿ですよ。霧積から碓氷へ抜ける山道で谷底に落としてしまったあの原稿。どこへいったんでしょうね。あれは僕の好きな原稿でした。(くどくてすまぬ)

そのほかにもいろいろな人にいろいろな誓いを立てたような気がするがだんだん記憶が遠のいてゆく。
それに今週末は東京で、多田塾の研修会と、そのあと甲野善紀先生+田口ランディさんとのバトルロワイヤル宴会というものが企画されているのである。ふたりのお話をほうほうと拝聴しながらぱくぱく料理をつまんでいればよい、というのならありがたいのであるが、なかなかそうもいかないみたい。
ともあれ、あと二週間、ウチダは悪鬼羅刹のごとき原稿書きマシンとなる予定である。
というわけでここで関係者のみなさんに業務連絡。

マシン状態のウチダは頭が完全に「あっち」へ飛んでいるので、ほとんどひとの話を聞いていません(聞いているような顔はしていますが)。ですから、この時期に「約束」とか「アポ」を取ることはなるべくお控え下さい。「はいはい」と生返事はしておりますが、たぶん何も覚えていませんから。アポの時間に指定の場所にいったがウチダが来ていないというようなことがありましても、どうか「ははは、あいつらしいや」と笑って流して下さい。