11月10日

2002-11-10 dimanche

休みなので必死に原稿を書く。
あと7週間足らずで「物書き廃業」であるので、土壇場に注文がどかどか入る。
「年内は休まず営業しています」という看板を出してしまった以上、アキンドのマナーとして、「いま忙しいからダメ」とは言えない。

共同通信から笠原和夫の『昭和の劇』(太田出版)の書評を頼まれる。笠原は私のフィルム・ファヴォリである『仁義なき戦い』のシナリオライターであるから、喜んでお受けする。
讀賣新聞からはオルテガ・イ・ガセットの『大衆の叛乱』についてのエッセイを頼まれる。私がオルテガについて書く機会なんかもう一生こないだろうから、これも記念に書くことにする。
角川書店の「口述筆記本」はホームページで「今秋刊行!」と銘打っておきながら、まだ直しが半分しか終わっていない。角川のY本さんはさぞや気が気でないであろう。これもはやいところ完成させないといけない。
そこへもってきて、12月7日は福岡でレヴィナスについての研究発表をしないといけないのだが、この草稿もまだ三分の一くらいしか書き上がっていない。
たぶんここに、今週末には『ミーツ』と『朝日新聞』から「次の原稿、そろそろ締め切りです」というキックが入るはずである。
今年の末には原稿をお渡ししますときっぱり約束したはずのレヴィナス『困難な自由』の改稿は200頁を残したまま店晒しである。
もうぐじゃぐじゃであって、いったいどういう順序で仕事をしたらいいのか分からない。
とりあえず12月25日締め切りの関西電力のメールマガジン『Insight』の原稿3枚を書く。(なんで、締め切りの遅い原稿から書き始めるんだ)
そのあと『角川本』の直し。
こりこり原稿に直しを入れていたらとっぷり日が暮れている。

肩がばりばりになったので、風呂に入って、ワインを飲みながら書評を頼まれた笠原和夫の本を読み始める。
これが600頁もあるので、片手では持てないくらい重い。しかし、めちゃめちゃ面白い。
夕食の支度も忘れて読みふける。
話の中に出てくる映画が全部見たくなったので、Amazon.com で検索をかけるが、笠原和夫の1974年以降の作品はほとんど「在庫切れ」である。
かろうじて『日本侠客伝』と『緋牡丹博徒』と『総長賭博』だけが在庫があったので、ゲット。(これで11月後半は連夜「60年代東映やくざ映画」鑑賞会である)
しかし、本を読んで「これは、是が非でも観たい」と思った映画は結局一つも手に入らず。(『日本暗殺秘録』、『女渡世人おたの申します』、『あゝ決戦航空隊』、『県警対組織暴力』『暴力金脈』・・)
『仁義なき戦い』だけは全巻DVDで揃えている。
笠原は実際に美能幸三(映画では広能昌三=菅原文太)や服部武(映画では武田明=小林旭)に会って、広島抗争事件の詳細を聞き出したのだが、二人の話によると実際の内紛密通裏切りは「あんなもの」ではなかったらしい。『頂上作戦』のあの複雑怪奇な「盃外交」もあれでずいぶん単純化されているそうである。ふーむ。
しかし、いちばん面白かったのは、天皇と右翼と総会屋の話。
笠原自身が取材した二・二六事件秘話にはびっくり仰天。(これはぜひ笠原の本を読んでご確認いただきたいです。とてもここには書けない。本文240-46頁)
「すごいこと」が書いてあります。
あと、笠原のシナリオ秘話で面白いのは、「ボツ」になったホンの話。
東映では共産党と銀行の話が映画化できない。(当たり前だけど、東映にも労働組合があって、現場には共産党系の組合員が入っているから。東映にもメインバンクがあって、銀行家が金の出入りを抑えているから)
それは、「取り次ぎ」についての暴露本が決して「取り次ぎ」を経由して流通できない。「紙問屋」の寡占体制について、新聞「紙」は報道できないというのと構造は同じである。
結局、こういうホームページに書きたいことを書いているのが、誰にも遠慮がなくて、いちばん気楽である。(そうはいっても、けっこう「自主規制」しているトピックはあるんだけど)