11月4日

2002-11-04 lundi

ようやくの連休。鍼で背中をほぐしてもらってから、三宮のジュンク堂に謡本(『井筒』、『鵺』、『通小町』、『正尊』)を買いに行く。
謡本のコーナーのとなりがコミック売場なので、ひさしぶりにマンガ本をチェック。『バカボンド』の新刊が出ていたので購入。それと諸星大二郎の『碁娘』。
くらたま先生、二ノ宮知子先生、佐々木倫子先生の新刊にもかなり食指がうごいたけれど、買い出すと全部買ってしまいそうなので、がまん。(ビンボー症なのではなく、マンガの増殖を怖れているのである)
定点観測で「西洋現代思想」のコーナーを覗くと、なんと『期間限定の思想』が『おじさん的思考』、『大人は愉しい』と並んで平積みしてある。
これって「西洋現代思想」にカテゴライズされるような本なのだろうか。
まあジュンク堂さんがそうお考えであるのなら、ウチダ的には文句はないですけど。
2階3階の新刊コーナーにも「ばーん」と平積み。
隣は西谷修先輩の新刊。都立大学の足立和浩門下のふたりが「こんなところで、こんにちは」状態である。
草葉の陰の足立先生も「なんだよ、ニシタニとウチダの本が平積み? どうなってんだよオレが死んだあとの日本はよお」とさぞや驚きであろう。合掌。
売場のおねーちゃんに「この本売れてます?」と聞きたくなったが、変なおじさんだと思われるとイヤなので、黙って帰る。

寒空をバイクを飛ばして、芦屋川のいつもの床屋でカット。
TSUTAYAでビデオを借りようと思ったが、うちにDVDがだいぶたまっているので、そちらを先に見ることにする。
そういえば、TSUTAYAは最近システムが変わって、借りたビデオの題名がレジのところにカタカナ表記される。このあいだ『北の国から』を借りようと列をつくっていたら、前のおじさんがビデオを差し出し、店員さんがそのバーコードを読みとったらいきなり画面に「ドスケ*オクサン」という文字が飛び出して、思わずよろけてしまった。
こ、これは恥ずかしいね。
AV業界の方もこういう事態を考慮して、もう少し題名に工夫をしていただけると、顧客満足度が高まるのではと一瞬考える。その点アルバトロスなどは『肉屋』とか『郵便屋』とか、きわめて価値中立的なタイトルであるあたり、こまかな配慮に感心。

家でごろごろと買い置きのリー・リンチェイのカンフー映画のDVDを見る。
この人もまあ玉石混淆だな。続けてふたつ「石」でしたけど。
ホットカーペットを出したので、床にごろごろしながら『バカボンド』を読む。
うーむ、すごい。
いよいよ佐々木小次郎が登場するんだけど、このキャラクター設定が実に意外。(中條流の鐘巻自斎の人物設定もよく練れている)
佐々木小次郎はこれまで誰が描いても、高倉健と鶴田浩二の演じた伝説的な小次郎キャラを超えることができなかったけれど、井上雄彦はそういうものにまったくとらわれていない。
ほんとに天才だ。。
草薙天鬼、伊藤一刀斎も出てきたし、きっとこのあとは御子神天膳とか、上泉伊勢守とかもぞろぞろ出て来るんだろう。吉川武蔵の世界を離れて、五味康祐や山田風太郎の剣術小説の世界も取り込んできて、とんでもないスケールのものになるのであろう。

本日は天気がよいので、山下達郎の新しいCDをかけながら、お掃除お洗濯。
『看護学雑誌』のインタビューの校正をしてから、『レヴィナスとラカン』の原稿書き。
原稿依頼がたまっているというのに、どうして私は誰からも頼まれない原稿書きに熱中してしまうのであろう。
しかし、おかげでレヴィナスとラカンの共通点を私は今日発見した。
それは二人とも「死者を弔う」ということをその営みの根本的な動機づけとしている、ということなのであった。(ネタの提供はスチュアート・シュナイダーマンさん。どうもありがとね)
というわけで、これからホットカーペットに寝ころんで、ワインをのみつつ、フロイトを読み返すことにする。
フロイトを読んでいると甲野先生からお電話。『期間限定の思想』の献本のお礼のお電話である。そのままいろいろおしゃべりする。
甲野先生はなんだかすさまじい取材攻勢にあっているらしい。
「私のような『裏の人間』が表に出るようになるというのは、社会が危機的なときなんですよね」と甲野先生がぽつりとつぶやく。
そういえば、私もみたいな人間にお座敷がじゃんじゃんかかるというのも、「表」の方では、もう間に合わなくなったということなんだから、それだけ日本が危ないことになっているのかも知れない。
困ったものである。