講演会のために四国は讃岐丸亀に行った。
ピンの講演会というのは生まれてはじめての経験である。(エルプリュスの夜会は小林昌廣先生との「かけあい漫才」であったから、いわばいつもの宴会の延長戦のようなものである)
教場でマイクをもってよしなしごとをしゃべるのは本業であるが、「丸亀市中央商店街」の自営業のみなさんを前に、それも聴衆の8割方はご婦人たちという状況で、何を講演すればよろしいのであろうか。
何を話そうか、瀬戸大橋を渡りながら考えていたが、丸亀駅で「いかりや呉服店」の若旦那であり甲野先生門下の逸材である守さんにお迎えいただき、そのままうどんやに連れていって頂いて美味絶佳のうどんを賞味しつつ歓談しているうちに、まあなんとかなるでしょ、といういつものはげしく楽観的な気分が支配的となる。
商店街関係のみなさまと名刺交換などをして、さっそく講演。
演題は「これで日本は大丈夫?」。
せっかく高額の会費をはらって参加されている聴衆のみなさまに「これでは日本はダメになる。まあ丸亀中央商店街にも明るい未来はないでしょう」というような悲観的なことを申し上げて、飯をまずくさせるわけにはゆかない。
あれこれあってこの先日本はゆっくりと衰えてはゆくけれども、それほどドラスティックな変化はないだろうし、それなりによいこともあるし、若い人たちはけっこう賢いんだから、私ら中高年のものはにこやかに次世代の成長を支援いたしましょう、というようなお話をする。
持ち時間50分間を5分オーバーして、無事終演。
1時間弱の仕事にしては法外な金額の謝礼を頂く。
こんなことを続けていてはたちまち人間がダメになりそうな金額であるので、詳細は秘密である。
講演はあと二回。高砂と芦屋でやる。それで「期間限定物書き」店じまいであるので、もう講演はおしまい。
生涯三回こっきりの講演であるから、多少のことは目をつぶって頂きたい。
そのあとの懇親会で守さんと懇談。
守さんとは今年の二月に甲野先生と芦屋の稽古に遊びに来て頂いて以来のおつきあいであるが、豪放にして繊細、ノンシャランスと気配りがみごとにブレンドされた一陣の春風のように気持ちのよい方である。名越先生といい守さんといい、甲野門下の傑物に辱知の栄を賜ったことは、今年の大収穫であった。よいご縁をつくって下さった甲野先生にはほんとうに感謝しなければならない。
翌日曜は朝から丸亀市内を車でご案内頂き、美味しいコーヒーをごちそうになり、さらに当地自慢のうどんを食す。
実にうまい。
昨日に食べたのは「古典派」(てんぷらぶっかけ)、本日のは讃岐うどんの「ヌーヴェル・キィイジーヌ」(釜しっぽく)である。牛蒡、人参、里芋などがうどんの上にごろりの載っているのであるが、その丹精した野菜の甘みといい、ゆで具合といい、うどんとのからみといい、絶妙である。
ともあれ、讃岐人のうどんによせる情熱は実にひとをして感動せしめるものを含んでいる。
丸亀は静かで温かくて、自然がきれいで、うどんがうまくて、ほんとによい街である。
また遊びに来ますね。
(2002-10-26 00:00)