10月22日

2002-10-22 mardi

西宮市の大学交流センターで授業。
本学のほか、関西学院、聖和、武庫川、夙川学院、甲子園、大手前、兵庫医科など、市内の八学校法人から教員が出て、単位互換の授業をやるという試みである。
京都ではかなり成功していると伺っているが、西宮市はまだ二年目。科目数も少ない。
こういうところで一席ぶつのはウチダの得意芸であるから、「いきなりはじめる映画記号論」や「寝ながら上達する武道技法論」のような講義をやってみたら愉しそうな気もするけれど、別に誰からもそういうオッファーがない。
「女性学」の講義なので、フェミニズムについて語る。(フェミニストが聞いたら気絶しそうな内容のこと)
学生たちは最初のうちこそ顔を青ざめさせて話を聞いているが、そのうちに精神の緊張に耐えきれなくなったらしくばたばたと昏睡してしまった。
なるほど人間というのは、こうやって「仮死状態」を擬態することによって限界を超える精神的ストレスを回避するものなのであるということがよく分かる。
現に私のほかの授業でもしばしば「仮死状態」のものが散見されるが、あれは私が教壇から吐き散らす毒息に気息奄々となりながら、なんとか生き延びようと懸命の努力をしている姿なのである。
まことに涙を誘うほど可憐な姿ではないか。

クラスの大半が仮死状態と死後硬直状態になってしまったので、やむなく授業を終わりにして、夕食の買い物をして帰宅。
これは便利。
教室からエレベーターで降りるとcoopの食品売場で、その下が駐車場。
もやしとキャベツと鶏ボールとラーメン玉を買って、「キムチ・ラーメン」を作り鍋からじかに食べる。冷たいビールとよく合う。
このところ橘さんのオススメの「煮込み野菜大量摂取ダイエット」というものを実施している。
ほんとうは野菜だけで、固形物はせいぜい厚揚げとコンニャクくらいで、肉や麺類を入れるのは邪道なのだが、ウチダとしては動物性蛋白質とデンプン質を摂取しないと生きている気がしないので、なかなかダイエットの効果があがらない。
でもやっと1キロ痩せた。
目標は71キロ。あと3キロ痩せる。

キムチ・ラーメンで満腹して、シーバス・リーガルの水割りをのんでいるうちに強烈な睡魔に襲われ、そのまま午後10時就寝。
爆睡していたら、真夜中すぎに松聲館の甲野善紀先生からお電話。
半分眠りながらお話する。
甲野先生のところはジャイアンツの桑田君の件でマスコミ取材が殺到し、なにがなんだかすごいことになっているらしい。
こういうふうなかたちで武術の身体技法の合理性と深みが知られることはたいへん悦ばしいことである。でも、野球の専門家からは当然バックラッシュがあるだろう。
そりゃそうだ。
プロ野球のピッチャーたちが「ぼくも桑田さんみたいに、肩にも肘にも負担のかからない投球法をマスターしたい」と言い出し、野手たちも「あのフットワークをマスターしたい」と言い出したら、現在のプロ野球のコーチングスタッフは真っ青である。
彼らには、ためない、ねじらない動きの合理性はたぶん理解できないだろう。
しかし、桑田君の実績は否定しようがない。
となると、おそらく「あれは桑田という天才投手の超人的な身体能力によるものであって、武術とは関係ない」というかたちで話を矮小化しようとする人が出てくるだろう。
その過程で甲野先生に対する非難ややっかみも(プロ野球界と武道界と両方から)出てきそうな気がする。
甲野先生が、桑田君の件はうれしいけど、これからちょっとたいへんかな・・・とやや微妙な口ぶりをされるのは、そんな予想が先生にもあるからだろう。
これが「パイオニアの受難」というものかもしれない。
甲野先生にはますますがんばって頂きたいものである。
かげながら応援してますからね。