9月11日

2002-09-11 mercredi

ゼミのY岡さんの教育実習の「お礼参り」に、奈良の県立畝傍高校へ。
御影の家からバス→六甲道→大阪→鶴橋→八木→タクシーで現地、という長旅。所要時間2時間半。
畝傍高校は創立100年を越す奈良の名門校で、昭和初年の不思議な建築物である。(朝鮮総督府や神奈川県庁にちょっと似ている)校長室にはまだ「ご真影」を収める金庫があってびっくり。
校長先生と懇談してから、Y岡くんの日本史の授業を見学。なかなかみごとなものである。すっかり感心して聞き入ってしまったので、「延喜天暦の治」についてウチダはいまけっこう詳しい。
そうか高校の授業というのも、こうやっておとなしく聞いていれば、別にあとから勉強しなくても、するすると頭に入るのだ。
私はいったい高校時代何をしていたのだろう。

そのあと進路指導の先生とお会いして、受験生の動向について最新情報を拝聴。
長引く不況で、受験生も大学のブランド信仰は薄れつつある。(一流大学を出ても、就職がむずかしい時代だから)むしろ、就職は就職と割り切って、大学では自分の好きなことをやりたいという傾向が強いそうである。
文科系でいま人気があるのは、政治学と国際関係。
ふーん。そうですか。
若い人たちもやっぱり「理解したい」んだ。自分たちの社会がこれからどうなるのか。
なるほど。
古い家並みの並ぶ八木の街を歩いて駅まで戻る。
久しぶりにスーツを着てきたので全身汗びっしょりとなって大学へ戻る。いったい夏はいつまで続くのか。
学長と教員の評価システムについてのご相談。
この夏休みに全国の大学の担当理事を集めたシンポジウムがあって、学長はそれに参加してこられたのである。
よその大学の「うちではこんなふうにやってます」という評価システムについての報告を聞かれたそうであるが、お話をきくと本学のシステムの方がだいぶリファインされている。
ともあれ、本学がこの作業では全国の私学の中でもかなり先進的であることが分かった。
「自己評価トップ100校」があれば、けっこういいランクにチャートインできそうだ。
今後の作業の進め方について学長からいろいろとアドバイスを頂く。

夕方からは大阪能楽会館で養成会公演。
能『花月』と舞囃子『松虫』、『賀茂』。
日曜も観世会で能『卒塔婆小町』と観世の家元の『融』を見たから、今週にはいって二日目の観能。大倉慶乃助くんが例のごとくぱこーんぱこーんとグルーヴ感のある大鼓を打っている。パフォーマンスとしては『賀茂』がいちばんバランスがよかった。
しかし、狂言方囃子方に着実若手が育っているのに、シテ方でオーラのある若手が出ないのは困ったことである。観客層はどんどん高齢化するし(湊川の会なんか、平均年齢70歳くらい)、能楽界の明日は大丈夫だろうか。

梅田の書店で村上春樹の新作『海辺のカフカ』を買って、さっそく読みながら帰宅。
そのままスパゲッティを作りながら、ワインを呑みながら、ウィスキーを啜りながら、読み続ける。
さまざまなの場所、さまざまな人間の身の上におきる出来事がストーリーが進むにつれて、ゆっくりと一つに繋がってゆく。(というと『マグノリア』みたいだけど。そういえば「空から異物が降ってくる」というのも『マグノリア』ぽい)
構成もみごとだけれど、ひとつひとつの出来事の記述がほんとうによく練れていて、ストーリーラインがもたらすドラマ性もさることながら、描写や会話を読むことが愉悦をもたらす。
数時間で一気に上巻を読み終わる。もったいないので下巻はちびちび読むことにする。
「頁をめくるのが惜しい本」を読むのは実にひさしぶりのことである。
とりあえず、村上春樹には長生きしてほしいものである。