9月6日

2002-09-06 vendredi

スピノザの『神学・政治論』を読む。
レヴィナスの『困難な自由』にかなり長文の『神学・政治論』批判があるので、そのための調べものである。(私が何も調べずにほいほい翻訳をしていると思っている人は悪魔に喰われるであろう)
岩波文庫のスピノザはもう絶版なので、図書館から借り出す。
奥付を見ると1960年に図書館が購入した本である。後ろの貸し出し票を見ると、これまでの貸し出し回数は三回。
昭和1980年に当時総文の二年生であったK元佐江子さんが借りたのが最初。
その次に1996年に一人借り出しているがこれは私であるので、この本は過去42年間に二人しか読む人がいなかったのである。
K元さんはもう卒業されて二十年。お元気にしてますかー。(知らない人だけど、なんとなく気になりますね)
42年間に二人ということは、スピノザ、あまり人気ないのだ。
面白いんだけどなあ。
だいたい哲学史に名を残すほどの人は非常に頭の良い人であるので、(当たり前だけど)その文章の滋味や切れ味を楽しむだけで、(内容があんまりよく分からなくても)けっこう愉しめるものである。
スピノザのこの本は17世紀後半のオランダの貴族派と国王派の政治対立と、カルヴァン正統派とレモンストラント派の宗派的対立の複雑な言説編制の中で書かれているものなので、そういう思想史的文脈をおさえておいた上でさらにスピノザ自身が内面化しているユダヤ教とキリスト教の確執を知らないと意味がよくわからないのであるが、それでも「ぐいぐい読ませる」というところがさすがである。
「レモンストラント派」については、その昔、それについての18世紀のテクストを大学院の演習で読まされた記憶がある。
「ああ、あのレモンストラント派ね」とうなずいてはみたものの、それがいったいどういう教理を説いていた宗派であり、その後どうなってしまったのかというようなことは何一つ覚えていない。大学院に行ってもあまり役に立つ知識は身に付かないものである。