あっというまに、8月も終わってしまった。結局、遊んだのはキャンプに行った三日間だけで、あとはずっと仕事をしていた。仕事をしなかったのは東京大阪間の移動日だけである。
おかげで五冊本を仕上げた。
もちろん1ヶ月のあいだに五冊書いたわけではない。(いくらなんでも無理だよ)
でもずいぶん書いた。
『ラカン/ヒッチコック』の翻訳が50頁、『おじさん2』の加筆訂正、『有馬温泉本』と『口述筆記本』の録音、『フェミニスト本』の書き下ろし100枚、『映画の構造分析』の「アメリカン・ミソジニー」が書き下ろし40枚。その他あちこちに雑文エッセイを数十枚。その間にTVに出て、ラジオに出て、週刊誌と新聞にコメントをして、インタビューを二つ。これだけ見るとなんだかプロの物書きのような仕事ぶりである。
しかし、誤解している方が多いようだが、こういう外交的な生活態度はほんらいウチダの好むところではない。
私はどこにもゆかず誰にも会わず、ひとり静かにこりこり本を読み、論文を書くのが心底好きなのである。ただ、根が「お調子者」なので、呼び出されるとほいほい出ていって、言わなくてもよいことを言って、ますます泥沼にはまるのである。
はやくこのような浮ついた物書き仕事から足を洗って、地に足のついた、地道な学究生活に戻りたい。
というわけで、八月最後の日は仕事をはやめに切り上げて、夕方から『オースティン・パワーズ・ゴールドメンバー』を見に行く。
マイク・マイヤーズ映画は日本では「受けない」「受けるはずがない」というのが私の年来の確信である。
メディアの一部が「おバカ映画」などと称してMM映画を流行現象のように扱おうとしているが、あれは流行したりするものではない。正味ただの「ボンクラ映画」なんだから。
予想通り封切り一週間後の土曜の午後というのに、国際松竹は三分の入りである。
ほらね。客なんて入らないでしょう。
第一作は渋谷西武シネセゾンでの単館ロードショー。柳下毅一郎と『映画秘宝』がすごく力を入れて宣伝していたので、客はそこそこ入っていたけれど、前作『私をシャグしたスパイ』のときは塚口の寂しい封切館で客は五人。最後のクレジットまでげらげら笑いながら見て、席を立ったら、客は私とM杉先生の二人だけだった。
だんだんと映画の予算規模も大きくなり、その分宣伝も大がかりになっているけれど、しょせんはMM映画ですよ。
映画が終わって振り返ると、暗い顔をしたカップルが気まずそうに席を立つ姿ばかりが目についた。
そりゃそうだよ。
見終わったあとに、お酒が美味しく感じるとか、会話が弾むとか、そういう映画じゃないんだから。
「パクリ」と「下ネタ」だけのMM映画が好きで好きでしょうがないという「しょうがない人たち」のための映画なんだから。期待しちゃダメよ。
もちろん、私は楽しみましたよ。堪能させていただきました。
しかし、ベルギー・ギャグとオランダ・ギャグが分からなかった。(「ベルギー人に育てられると邪悪な人間になる」というところで一同深く納得するのはどういう下地があってのギャグなんでしょう。カナ姫はご存じでしょうか?)
こういうエスニック・ギャグというのは完全にアメリカ・プロパーのネタなので、アメリカ人じゃないと分からないんだろうな。(誰か知ってたら教えて下さい。「かさぶた」ギャグとか「パンケーキと煙草」ギャグも、「本歌」が分かりませんでした。)
しかし、いろんな映画ネタがあった。
ウチダに分かったのは『M-2』と『ゴールド・フィンガー』(これと『007は二度死ぬ』がメインのネタ元ですね)と『ハリー・ポッター』と『ウェストサイド物語』と『雨に歌えば』と『サタデー・ナイト・フィーバー』と『国際諜報局』(このハリー・パーマーとジェームズ・ボンドを合わせたのがマイケル・ケインの役どころ)と『羊たちの沈黙』と『スーパーフライ』と『カイロの紫のバラ』・・・
ほかにもいろいろな映画からの引用があったと思いますので、お気づきになった方は
「KCMMFC・『Austin Powers Gold member』ネタもと当てクイズ係までどんどんお知らせ下さい。
でも、トム・クルーズのパワーズとケヴィン・スペイシーのDr.イーヴィルの『オースティン・パワーズ実写版』もこうなると見たくなってきましたね。
(2002-08-31 00:00)