8月4日

2002-08-04 dimanche

7月31日から恒例の久保山裕司メモリアル・キャンプのために中禅寺湖へ。
キャンプ自体は8月1、2、3の二泊なのだが、ウチダひとりは神戸から日光まで行くので、行きに一泊、帰りに一泊という四泊五日の大旅行である。
東京での泊まりは学士会館。いつ予約しても空き室があり、駐車スペースががら空きだし、朝の集合場所である新宿の伊藤家まで10分でいける。
午前10時に神戸を出て、酷暑の東名を疾走して、大渋滞の首都高をよろよろと降りて、夕方6時に学士会館にたどりつく。風呂を浴びてから、よろよろと「すずらん通り」を歩いて、「キッチン南海」でカツカレーとビール。
南海でカレーを食べるのは25年ぶりくらいであるが、店の構えもカレーの味もまったく変わっていない。
私はここ南海のカレーと渋谷全線座横の「インディラ」のカレーが好物であった。(味が少し似ている)インディラのチキンカレーをもう一度食べたいがもう店がない。
来年も南海でカツカレーを食べることにしよう。
午後8時から午前6時まで爆睡するが、数日来の暑さによる寝不足で、いくら眠っても身体の芯の疲れが抜けない。
鼻水は垂れるし、歯茎は腫れるし、偏頭痛はするし、キャンプ初日としては最低の体調である。
鼻水をたらしながら、シグマリオンで e-メール時評の原稿を書いて送稿。
元気を奮い起こして集合場所へ。
今回の参加者はいつもの伊藤茂敏、澤田潔の両君に、初参加の松本順一くん。
もう妻たちも子どもたちも来てくれない「おじさん」たちだけのキャンプである・・・(と思ったら、キャンプ二日目の夜になって実は幹事役の伊藤くんが女性メンバーの参加申請を無断で却下していたことが判明、激しい糾弾を浴びることになった)
私は今回colemanの巨大テントを購入。(床シート付きで19800円!)
なんと「テントの中で立って着替えができる」のである。
ダンロップの二人用テント(とは名ばかりの一人でも狭い土牢タイプテント)で苦節15年過ごしたあとであるので、巨大テントの生活は豪邸気分である。
いつもの中禅寺湖畔菖蒲ヶ浜キャンプ場は、日にちが早いせいと、アウトドアそのものの流行がすたれたせいもあって、15年ほど前の人口密度に戻っていて、実にすがすがしい。
巨額の投資を行って大量のぴかぴかのキャンピング・グッズと巨大テントと巨大タープで「ここはわしの地所じゃけんね、入るんじゃねーぞ」的にキャンプ場を占拠していた、悪辣非道の核家族軍団が一掃されたからである。
よろこばしいことである。
私たちのキャンプはそのような「日常生活の延長めざすコンビーニエントな」キャンプではなく、あくまで心身の限界に挑むハードボイルドな「塹壕生活」であり、その拠って立つエートスというものをかの外道どもとはきっぱり異にするのである。
のろのろだらだらと設営をし、設営後、ただちに日も中天にあるうちからビール。
たちまち生酔いとなり、全員昼寝。
のろのろ起きだして、再びビール。
つまみが欲しいなーとコールマンのガソリンストーブの上に鉄板に置いて、キャベツ、もやし、ウインナ、餃子、豚肉、焼きそばなどを適当に焼いて、ある者は地べたで、ある者は立ったままむさぼり食う。
息を呑むほど美しい真夏の星空の下、さらにウィスキーで加速しつつ、おじさんたちの清談は果てしなく続くのであった。

三日にわたる清談の日々で、駆使しうる限りの豆知識を動員して、まだ話の終わらないおじさんたちは再びのろのろとテントを撤収。恒例により湯元温泉の露天風呂で旅の汚れを落とし、無精ひげをそり落とし、泥で汚れた髪の毛を洗い、こざっぱりとしたなりになって、帰京。いきがけに訪問できなかった久保山家を訪れ、一同で故・久保山裕司 "隊長" の遺影に焼香。無事、解散。
しかし、このキャンプで過ごす数十時間の会話から得るものはほんとうに多い。
ウチダは「象牙の塔」の人なので、この数日は「世間」の実相に触れる貴重な機会である。
彼らの壮絶なる日々の報告を聞くにつれ、「危機」にあるとは言え、大学というところがいかに「浮き世離れ」した楽園であるか、毎度、深く反省させられるのである。
今回は、体調不良でのスタートだったが、友人諸兄とのウオームハーテッドな清談と、湖面をわたる涼風と、星空の効果で、二晩、死んだように深い眠りを貪り、三日目には全身の疲れがぬぐい去るように消えていた。

実家を訪れると、兄上と甥のシンペーが待っている。
シンペーは先週から合気道自由が丘道場に入門。晴れて多田塾門下となり、私の「弟弟子」というものになったのである。
ゆり@横浜さん、コッシーくんに続いての快挙である。
どうか末永く合気道に親しみ、ともに武道について語る日が来ることを祈念する。

母上のご機嫌を伺い、二週間後の再訪を約して、再び長駆、神戸へ。
東名は珍しく空いていて、6時間余で神戸着。
名神高速から六甲の山影が見えると、「ああ、わが家に帰ってきた」と深く安堵する。
やっぱりわが家はいいなあ。
明日は鳴門から増田聡くんが怒濤の登場。『ミーツ』の江さんとの「しゃべくりデスマッチ」を砂かぶりで観戦という愉悦の時間が待っている。
増田くんに『ミーツ』で連載音楽エッセイを書いてもらったら、という企画を私が江さんに持ちかけたので、その初顔合わせなのである。
どのような激しいバトルが展開することになるのであろうか。「ジャック」に集う街レヴィ派のみなさんはどのようにこのバトルにからむのであろうか。楽しみ。