7月3日

2002-07-03 mercredi

なんだか忙しい。
スケジュール表を見ると三つくらいしか用件が書いてないから、「おお、今日はヒマかしら」とぬか喜びするのであるが、一つ一つの用事がけっこうたいへんなのである。
月曜は授業は一こまであるが、午前中が能の稽古、夕方から杖の稽古で、そのあいだにもろもろの雑務があり、落ち着いてご飯を食べるヒマもない。
火曜も授業は一こまだが、終わると同時に音楽館ホールでピアノ・リサイタルにかけつけ(合気道を受講している音楽学部の学生さんからご招待されたのである。リストをばりばり弾いていた。うまいものである)、おにぎり二つ食べて、そのまま入試問題検討委員会で英語の試験問題をめぐって3時間近く議論をして、だだだと走って帰宅して合同セミナーの夕食の仕込み(餃子と唐揚げ)をしてから六甲セミナーハウスへ。

今年はじめてセミナーハウスでの「泊まり込み三年生四年生合同セミナー」というものを企画した。
うちで夕食会をしてもよいのであるが、家が遠い人は8時頃に帰らないといけないし、全員が帰った「宴のあと」に、深夜ひとり家を掃除して食器を洗う、というのもそろそろ疲れたので、「では、このへんで先生は失礼します。あとは若い人たちだけでごゆっくり」と早寝できるセミナーハウスでの「餃子パーティ&エンドレス宴会」に切り替えたのである。
みんな色々な食材を持ち寄り、大きな台所でいっしょにご飯を作る。
この作業がキャンプみたいで愉しい。
それから二階に会場を移しての大宴会。
私は十二時ごろにリタイアしたが、三年生諸君は午前6時まで大いに盛り上がって話し込んでいたそうである。
ぼけっとした頭で麓に戻り、朝ご飯を食べてから(今回のお泊まりセミナーは「晩飯自前・朝食抜き」の「素泊まり1000円コース」)、取りあえず寝直し。
二度寝で12時まで寝てしまった。(よく寝るなあ)

午後2時に御影で角川書店のお二人と待ち合わせして「高杉」でお茶をしながらビジネストーク。
例によって「3秒前に思いついた」持論を2時間滔々と展開。
その場で思いついた話なので、しゃべった端から忘れてゆく。
途中で、「ああこんなことならこれを録音して、そのまま本にしてもらえばよかった・・・」と後悔。
角川書店さんは「バックオーダー」の順位12番目なので、書き下ろしだと原稿をお渡しできるのは5年後くらいになりそうである。その頃にはもう私の本なんか読む人は誰もいないであろうから、早めに出しておきたいという双方の利害が一致して、こんな感じのおしゃべりを「口述筆記」で一冊に、ということに話がまとまる。
梶山季之や松本清張ではあるまいし、口述筆記を本にする、というのも私のような無名の物書きがナマイキなことではあるが、なにしろ「期間限定物書き」であるからして、スケジュールがタイトなのである。ご海容願うほかない。
それよりうれしいオッファーは既発のエッセイの「文庫化」である。
どこかの出版社から『ため倫』や『おじ的』の文庫化の申し出は来てますか、と訊かれたので、来てないですよ、とお答えしたら、「では、ぜひウチで」という話になった。
まだオリジナル単行本刊行中なので、「じゃあ、買うの止めて文庫化を待とう」というような勘定高い読者が続出されては困るが、お手頃価格の文庫本で若い人たちに読んで貰えるのは書いた当人としてはたいへんにありがたいことである。
というところで業務連絡です。

えーと業界のみなさま。『映画は死んだ』(松下正己くんとの共著)『現代思想のパフォーマンス』(難波江和英さんとの共著)『レヴィナスと愛の現象学』など、文庫化「予定なし」の単行本在庫多数ございます。高額物件のために発行部数が伸び悩んでおりますが、いずれも良い本です。格安価格にてご奉仕致しますので、文庫化につきましてご一考下されば幸いです。

お二人を住吉までお送りしてから下川先生の稽古場へ。
謡の拍子について先生を囲んでいろいろと面白い話を聞いて、先生に『謡稽古の基本知識』という本をお借りする。
ウチダのアプローチは「思想には身体から入り、身体技法には理屈から入る」というものである。
そのため、武道の場合「理屈は一人前だが、技術が追い付かない」という難点を抱えており、本業の方は「話は分かりやすいが、ものを知らない」という難点を抱えている。
なかなかうまくゆかないものである。

というところまで書いていたら、甲野先生からお電話。
『邪悪なものの鎮め方』(仮題)の企画が先生にもたいそうお気に召したらしく、夏休みがはじまったら、有馬温泉あたりに繰り出して、夜を徹して甲野・名越・ウチダ鼎談でわいわい盛り上がっているところをテープに録音して、それを内浦さんに起こして貰って本一冊仕上げましょうということに話がまとまる。
甲野先生からはぜひ飯田先生を「聞き手」に呼んで下さい、というご希望である。
たしかにこういう話は打てば響くようなリアクションのよい聞き手がいるのといないのでは盛り上がり方がまるで違う。
というわけで、名越先生、飯田先生、八月の初旬に予定空けて置いて下さいね。(なんだか業務連絡ばかりの日記だな)