るんちゃんが風のように来たり、去った。
滞在中、一回だけ水曜の夜に夕食をともにする。
「グリルみやこ」でビーフシチューをたべてから、「ジャック・メイヨール」でワインを飲む予定であったが、「みやこ」は改装中でおやすみ。
そこでお向かいのチリ料理に入るが、これが「大当たり」でおいしいことおいしいこと。
しかしメインの肉料理とパエリアのあいだに20分ほど時間があったために、膨満感が訪れ、さいごのパエリアには四苦八苦。
苦しい苦しいと腹を突き出しながらハンター坂をのぼって、ジャックへ。
るんちゃんは橘さんに挨拶だけして、そのまま次なるランデブーへ走り去る。
カウンターでワインをのんでお腹がおさまるのを待っていたら、『ミーツ』の江さんと青山さんがどどどと登場。
そこに街レヴィ派のみなさんも次々と登場して、たちまち瀟洒なワインバーは哲学する人々の激論の場となる。(なにしろ、ステーキハウス「K分」のK分さんなんか、自己紹介即レヴィナス『実存から実存者へ』についての話)
しかし、ウチダもこういう雰囲気は大好きであるから、もうがんがんゆく。
たちまち時計は十二時をまわり、はっと気づくともう午前2時半。
五時間しゃべりまくっていたことになる。
あわててローズガーデンをころげおちて、タクシーで帰宅。
おかげで、翌日の大学院の演習が眠かった。
文春新書の『寝ながら学べる構造主義』の見本刷りが到着。
さっそくソファーにごろ寝しながら読んでみる。
おお、これは具合がよろしい。
われながら面白い。
読んで分かったことは、「前から思っていたこと」を文章化した箇所はあまり面白くないが、「書いている最中にふと思いついて書いたこと」は変に面白い、ということである。
「ふと思いついて書いたこと」は、書いている本人にもなんだかよく分からない情報を含んでいる。
その「なんだかよく分からないこと」をそれからずっと「あーでもない、こーでもない」といじりまわしているうちに、それがだんだん整理されてきて、そこからいくつかの学術的知見が引き出される。
たぶんその「書いている本人もなんだかよく分からないもの」をいつのまにか自分が書いているという経験を求めて、私たちはものを書くのである。
(2002-06-14 00:00)