5月12日

2002-05-12 dimanche

二月ほど前に5月12日の日曜日に父親の卒寿の祝いをすることに決めて、スケジュールのところに、他の用事を入れないように、そう打ち込んでおいた。
今日、携帯のスケジュールを開いたら、「卒寿」と書いてあった。
残念ながら、卒寿の祝いはできなくなってしまった。
本日午後1時36分に、父親は永眠してしまったからである。

11日の夜は私が付き添った。
夕方の五時過ぎに睡眠薬を投与し、一度薬を切ったときに一度だけ覚醒して、苦しげにふとんを押し下げ、酸素マスクをはずしたが、看護婦さんにお願いして、すぐに薬を戻してもらった。
そのあとはずっと眠り続けていた。
呼吸が浅く、ときどきたんがからむので、吸引をしてもらっていたが、のどにカテーテルを差し込まれても、もう痛みを感じないようで、わずかにまゆねをしかめるだけだった。
午前1時半ころまで、父の浅い呼吸が気になっていたが、明け方には私も眠り込んでしまった。
付き添ったといっても、何もしてあげらられず、ただときどき手を握ったり、反応のないままに小さく声をかけるだけだったが、父と二人きりで、父の生涯最後の数時間を過ごすことができたのはありがたいことだった。
その前は兄が二晩を父と過ごした。
兄弟がひとりずつが最後の三晩を父のベッドの横で過ごしたことになる。
その兄が朝の7時すぎに来てくれたので、交代して家に戻り、昼すぎまで仮眠をとった。
昼過ぎに起き出してひとりでご飯を食べていたら、母から電話で「もう長くなさそうだ」という連絡が入る。
病院にもどると、その15分ほどのあいだにもう呼吸がほとんど停止していて、瞳孔も反応がない。
枕元にすわって数分後に、医師が「心臓が停止しました」と宣告した。
そのあとしばらくは間欠的に呼吸があり、やがてそれも止まった。
母と兄と私に囲まれて、父は静かに息を引き取った。

享年90歳。
兄も私も涙はでない。
ふしぎに悲しみもない。
よく生きてくれたと思う。
よい父親だったと思う。