4月23日

2002-04-23 mardi

火曜日は「半ドン」である。お昼に仕事が終わって、ぱたぱたと家に帰る。昼御飯を食べて、掃除洗濯をしてから、夕食の支度まですませて、能のお稽古へ。
下川宜長先生のお宅は私の家から坂道を転げ落ちて五分のところにある。素謡『竹生島』と舞囃子『養老』のお稽古一時間で一汗かく。
謡はだいぶバイブレーションがよくなってきた。
謡曲もほかの歌謡も同じはずだが、声は「前に」出してはいけない。内側に引き取って巻き上げる。すると頭頂部の百会のあたりに「穴」が開いて、そこからバイブレーションが天へ抜けて行くのである。
うまく抜けるとたいへん気分のよいものである。

舞はまだ「歩く」ところで難渋している。
いろいろ工夫をしているのだが、「これだ!」という原理を見出せない。
やり方をかえると、体感が微妙に変化するのは分かるし、先生の動きを見ていると、どういうふうになれば「よい」のかは分かるのだが、「よい」動きをしているとき、シテの身体の内側ではどういう「感じ」がしているのか、それがまだ想像的に追体験できない。
私はどちらかというと「ことば」から身体運用に入る人間なので、身体の外側を見ていると同時に「内側ではこういう感じがしている」ということを「ことば」で言ってもらえるとありがたいのである。(「天井から糸で吊り下げられている感じ」とか「膝から下が液化して崩れる感じ」とか・・・そういう土方巽的なメタファーが好きだ。)

ひさしぶりにカレーを作る。
茄子、ニンジン、ピーマン、マイタケなどを大量に入れた極辛チキンカレーである。
ありとあらゆる「辛い」調味料を見境なく放り込む。
てきとうに作ったのだが、けっこう美味しかった。

飽食したので、そのままずるずる寝ころんでDVDで『ダーティハリー5』を見る。
おととい3、4、5とまとめ買いしたので、これで三夜連続の『ダーティハリー大会』である。
作品の出来としては、クリント・イーストウッド自身が監督した不条理劇的な『4』がいちばんよかった。
台詞は『3』の Go ahead, make my day. にトドメを刺す。
コーヒーショップにはいった強盗が女性を人質にとって、彼女に銃をつきつけて、「近寄るとこいつを殺すぞ」と脅すのだが、キャラハン刑事はまるで気にしないでマグナム44を強盗の顔面につきつけたままどんどん間合いを狭めて、この台詞を吐くのである。
なんて訳したらいいんだろうね。

「いいからやれよ。俺を楽しませてくれ」

うーむ。

「やれよ。派手なパーティにしようじゃないか」

なんてのはどうかね。
村上春樹によると、この場面ではアメリカの観客は「おおおー」とどよめて満場総立ち大喝采になるのだそうである。
『昭和残侠伝』における健さんの「死んで貰います」みたいなものであろう。

ゆうべ見た『5』では、開巻早々殺されてしまうジャンキー・ロッカーの「死に方」にあまり気合いが入っていたのに感心して、死に顔をつくづく眺めたらジム・キャリーだった。(クレジットでは James Carrey)
ジム・キャリーさんてば、売れない頃はこんなところでけっこうまじめな芝居をしてたんだ。

ハリー・キャラハン刑事について分かったこと

(1)コートを着ない(寒いときはジャケットの下にセーターを重ね着する)
(2)飲むのはビール(バドとかクアーズとかいう庶民派銘柄)
(3)マグナムを抜き撃ちする前に一回まばたきをする
(4)いかなる銃弾も彼には当たらない