4月3日

2002-04-03 mercredi

朝日の「e-メール時評」の第一回が出る。
一読した家族の顔が曇る。
「つまらんな・・・」と兄が低くつぶやき、母もうなずく。

こんなものを書いていると、朝日の読者は「あ、ウチダって、こんなつまらないこと書くやつなんだ。じゃ、本買うのやめよう」と思ってしまうであろうから、これでは逆効果だ。なぜ『ミーツ』に書くように書かないのか、無根拠な暴論をばんばん断言して、屁理屈をこねて言いくるめるというのがおまえの書き物のただ一つの取り柄なんだから、それを放棄してどうするんだ、といたくご立腹である。

青くなって、600字で「800万人が納得する」ものを書くのはたいへんなんですよ兄上と言い訳をするが、800万人に受け容れてもらおうという心根が卑しい、と言っていっかな許してもらえない。
好き放題に書くか、やめるかどちらかにしろ、と決断を迫られる。
めんどうなことになった。
やむなく次からはみなさんのご期待に添うべく、好き放題に書くと約束する。
しかし「みなさんの期待に添うべく、好き放題に書く」というのも考えてみれば変な話だ。

じゃあ、いったい今回の時評の原稿は誰のために書いたのだろう。
書いている本人は相次ぐクレームにうんざりし、熱心な愛読者には大不評、新聞社だって出来の悪さにはしごく不満であるに違いない。
喜んでいる人がひとりもいない。
これまで私が書いたものについては、最低一人は喜んでいる人間がいた。(私だ)
その最後の読者も失ってしまった。
昨日のエッセイはわずか600字とはいえ、誰にも祝福されない不幸せな原稿であった。
ごめんよ。
二度とこんなことはしません。