先日、秋葉原に行ったので、ついでにひさしぶりにCDを何枚か買った。
ウチダは「街場」のひとではなく、「山場」のひとなので、ふだんはほとんど「お店」というところに行かない。
CDを買うなんていうのは、半年に一回である。
今回の買い物はCS&Nとジャクソン・ブラウンとクリストファー・クロスとギルバート・オサリバン。
探していたのはステファン・ビショップとクリッターズとジョン・セバスチャンだったのであるが、「ヤマギワ・ソフト館」にも、そういう一部好事家向け70年代グッズは置いてなかった。
タワー・レコードに小唄勝太郎や神楽坂浮子を探しに行くようなものである。
ウチダはあきらめがよい。
ウチダの音楽の趣味は音楽性とはまったく無関係であって、単にシンガーが「鼻声・ブルーズフレイバー」であればよろしい。
声質的にいちばん好きなのはニール・ヤング、ジョン・レノン、J・D・サウザー、ジェームス・テイラー、ライ・クーダー。
CSN&Yをはじめて聴いたのは、1970年春の駒場の文研。
久保山裕司くんがカセットデッキを持ち込んで Deja vu を大音量で聴きながら、書き物をしていた。
横に座り込んで、久保山君に「これ、何?」と訊ねたら、会心の笑みを浮かべて、「CSN&Y・・・ウチダ知らないの?」
そのあと渋谷の「グランド・ファザー」(全線座の隣のビルの地下にあったロック喫茶)に行って、「CSN&Yの曲かけて」と頼んだら、ニール・ヤングの After the Goldrush をかけてくれた。
LP一曲目の Tell me why を聴いたら、足が震えた。
ビートルズが解散しても、まだロックは大丈夫だとそのとき思った。
そのころはビンボーでステレオを持っていなかったので、音楽を聴きたくなるとグランド・ファザーに通った。
その一枚のLPを聴くためだけに何度も足を運んだというと、高校生のころにチャールス・ロイドの Forest flower を聴くために通ったお茶の水ニューポートと、フランク・ウェスの In a minor groove を聴くために通った新宿DIGと、ニール・ヤングの After the Goldrush を聴くために通ったグランド・ファザー。
音楽は、それに出会うべき瞬間がある。
十代と二十代のはじめのころ、音楽はほんとうに新鮮だったし、それなしでは生きてゆけないほどに痛切な糧だった。
いまはもうそういうふうに音楽を聴くことができない。
「おじさん」になると、いろいろな能力を失う。
ロックに命がけになるという能力もその一つだ。
春の日差しを浴びながらベランダでCS&Nの「組曲:青い目のジュディ」を聴く。
洗濯物を干すときのBGMはやっぱこれやね。
(2002-03-16 00:00)