2月24日

2002-02-24 dimanche

ハードな二日間であった。

23日は合気道のお稽古に甲野善紀先生と松聲館のお弟子さまたち、守伸二郎さん(四国丸亀の呉服屋の旦那でありかつ異才の武道家)と多田容子さん(時代劇作家でありかつ手裏剣術の達人)がお見えになる。
甲野先生が来る、というので大阪教育大の原くんと東大気錬会の糟谷くんも参加。
例の如く、爆笑続きのにぎやかな稽古となった。
みんな思う存分甲野先生にわざを掛けてもらって、「一こま消える」甲野先生の超常的な技法を堪能する。
稽古終了後、芦屋のロイヤルホストに移動して、3時間近く先生を囲んでわいわいおしゃべり。

ウチダはそのあと甲野先生のご紹介で、「関西最強の精神科医」名越康文先生とのバトルトークがあるので、森ノ宮の名越クリニックに移動。
「神出鬼没」のかなぴょんと、今回たいへん柔らかい受けを取るので甲野先生にすっかり「愛用」された飯田先生も甲野先生のお誘いで、そのまま乱入。
名越先生とウチダ先生は、ぜったい話が合いますよ、と甲野先生が断言されていたので、すごく楽しみにして、『スプリット』を熟読玩味して臨んだのであるが、ほんとうに最高に楽しい人であった。
五分も話しているうちに、もうなんだかずいぶん前からの知り合いみたいな気分になってきた。
クリニックのアシスタントの方と朝日カルチャーセンターの宮永さんという「甲野・名越ファミリー」の女性二人が宴会のセッティングをしてくださったので、私たちはただばりばり食べて、ごくごく飲んで、笑うだけ。
このまま朝まで宴会をつづけたかったけれど、甲野先生は明日の稽古会があり、名越先生は診療があり、ウチダは下川正謡会の会があるので、名残を惜しみつつ終電ぎりぎりの11時半にお暇する。

「これはオフレコなんですけど・・・」という精神科の現場秘話ほど面白い話というのはなかなかないが、名越先生はクライエントばかりでなく、あらゆる種類の「怪しい人々」を惹き付ける異常な磁力がある人なので(甲野先生もその点では現代日本屈指の人だから、二人いっしょにいるとたいへんだ)、お二人が出会った「怪しいひとびと」の話を聞くだけで、時間がいくらあっても足りない。
「畸人」というのはウチダにとっては深い敬意を込めた尊称なのであるが、このお二人には謹んで「当世畸人列伝」の二章を割きたいと思う。
この三人でわいわいしゃべったのを冬弓舎の内浦さんに本にして出してもらうという企画がるのであるが、このままではウチダのパートはほとんど「(笑)」だけになりそうである。
ゆうべは武道の話はまったく出ないで、最初から最後まで「変人」「怪人」の逸話と、超常現象と幽霊の話。
ウチダは日本の大学の教師にしては珍しく「UFOを見たことがある」と「悪霊に取り憑かれたことがある」二大経験ホルダーである。この話、学生は喜んで聞いてくれるが、なかなかご同輩で真に受けてくれる人がいない。
今回、名越先生が岡山から大阪に帰る新幹線で見たUFOと私が尾山台で見たUFOが同一のものらしいということが確認できたのは、だから望外の収穫であった。
ゆうべ甲野先生がお話しになった昭和の霊能者ユイ・マサゴの話は、後から考えたら多田先生からも聞いたことがある。(そういえば多田先生も好きなんだ、この手の話は。)
甲野先生は気を飛ばすだけでなく、式神もアシスタントに使っているそうである。(安倍晴明みたい)。
私が「生き霊」を飛ばすという話をしても、ふたりともぜんぜん驚かないで、それどころか「生き霊」のコントロールの仕方についての技術的助言までいただいてしまった。(そんなこと教えてくれる人なかなかいない。)
今年のゼミ生には「幽体離脱」と「除霊」が特技というひとも入ったし、甲野-名越ラインとのネットワークもできたし、いよいよ「ウチダ超常現象研究所・除霊します(無料)」という看板を研究室のドアにかける日も近い。(「となりのマルクス主義者」上野先生がそれを見て、どれほど怒るであろう。)

明けて24日は下川正謡会。
朝からきりりと紋付き袴姿で、『安宅』、『竹生島』と素謡二番のあと、舞囃子『養老』。
『養老』は山神の舞なので、ウチダとしては、昨日の今日なので、神さまに憑依してもらって舞おうかしらと思ったのであるが、邪念がわざわいしてか、ただ「恐い顔」をして舞うだけに終わり、下川先生に叱られた。
そのあとも『弱法師』、『鉢木』、『松風』、『紅葉狩』と下川先生の隣で、先生に「共鳴」しながら何番か謡をやらせていただく。これはほんとうに気持がよい。
舞はだいぶ辛い点をつけられたが、謡の方は「ずいぶん上達しましたね」と褒めていただく。
下川先生が謡の技術として「強く謡うと、大きな声で謡うは違う」ということを繰り返し忠告してくださった。「声を抑えると謡いが強くなる」という下川先生の発声法の機微は、昨日甲野先生からうかがった「身体を止めて、エネルギーだけ送る」という体術の技法と通じるものがあるのでは、とウチダはひとり沈思する。

実に学ぶことの多い楽しい二日間であった。