1月25日

2002-01-25 vendredi

ちょっと「へこんでる」小林昌廣先生を励まそうと「小林先生を励ます会」を企画した。
主催者は私と飯田先生。お客さまは小林先生と、当日飛び入りのウチダの旧友、美術史家の太田泰人くんである。
しかし、励ます必要があったのかどうか定かでないほど小林先生はハイテンションであった。
京舞の井上八千代さんと合同授業をされたことがよほど刺激的であったようで、その話を熱く熱く語っていた。
私は死ぬほどおしゃべりな人間であり、ほとんど相手に口をはさむ隙を与えない話術をして世渡りの道としているのだが、その私が「口をはさむ隙が見出せない」人がこの世に何人かいる。
小林先生とナバエちゃんとマスダくんと竹信くんと江さんである。(去年の小林先生の講演のときは、小林先生の話をきいたあと、ナバエちゃんと並んで呑んで、そのあとマスダくんをうちにお泊めしたので、その日いちにち私は「寡黙なひと」であった。)
いちどこの五人を一堂に集めてデスマッチをやってみたい。
単位時間内の発語音声数では小林先生とナバちゃんが譲らぬ勝負。迫力では圧倒的に江さん。ワンセンテンスの長さでは間違いなく増田くん。全員が過労で倒れたあともまだ「牛が涎を繰るように」終わりなくしゃべり続けているのは竹信くんであろう。
一方、神戸大学での美術史の集中講義に来た太田くんは、私の友人の中でもきわだって寡黙な人であり、「蛍雪友の会」の集まりになどでは一晩に二回くらい「くすっ」と笑うだけで、あとは静かにお酒を呑んでいる。
ときどき、奇跡的に出来た会話の隙間に、意を決して「あのさ、おれ思うんだけど・・」と低く響く声で話をし始めることもあるのだが、竹信くんか浜田くんの暴力的な介入によって、そのフレーズが句点にまでたどりつくことはほとんどない。太田くんはそういうとき、不作法な友人たちを哀しげに眺めながら、ふたたび静かに酒杯に戻るのである。
したがって私は太田くんとは30年来のお付き合いなのであるが、いったい彼が何を考えているのか、いまでもよく知らないのである。