ゼミ面接三日目。
去年がのべ48人、今年もそれくらい来るかなと思っていたのであるが、昨日までで36人。最終日の今日は12時から始めて最後の学生が帰ったのが5時半近く。その間昼飯も食べず、コーヒーを一杯飲んだだけで、29人面接した。
ふう。
トータル65人。(今日面接前に高熱を発して帰った一人が明日来るから66人)
一人平均10分(長い人とは20分くらい)面談したから、ざっと10時間である。
一学年250人だから4人に1人がウチダの顔を見に来た勘定になる。
あんまりだぜと文句を言いたいところだけれど、実際にはある学年の四分の一の学生と face to face で、その人がどういう本を読み、どういう映画を見て、どういう音楽を聴き、何に知的関心を持っているのかをかなり詳細にインタビューしたことになるわけだから、今現在、私は総文で「いちばん二年生の知的傾向に詳しい教師」であるというふうに言えなくもない。
その立場から言わせていただくと、00年度入学の総文学生のクオリティはかなり高い。
こんなに面白い子がたくさんいるなんて知らなかった。
たしかに勉強はあまりしないかも知れないし、本もろくに読んでないかも知れないけれど、みんないい子たちばかりである。
もちろんその中にはがんがん勉強している子も、猛烈に本を読んでいる子も、とんでもない技能やポテンシャルを持っている子もいる。
この中からゼミ生12名を選ばなければならない。
面接したあと、手元のチェック表に「ぜひうちに来て欲しい」という赤丸がついた学生が18人いた。この子たちが全員第一志望にウチダゼミを書いたら、その中から6人落とさなければならない。(泣)
もちろん、その他の48名だって、ゼミ生として迎えるにやぶさかではない。
ほんとうは、私が「来て欲しい」とおもうような学生は、どこのゼミに行ってもちゃんと順応できる程度の社会性がある人たちで、むしろ内田ゼミでしか暮らせないような「困った」学生を取る方が教育的には正しい選択なのかもしれない。
ゼミ生の選択のときはいつも心が痛む。
だけれど、さらに問題なのは、学生たちの知的関心の変容に現在の総文の教員の陣容が十分に対応していないということだ。
総文の教員は30名いるから、ほんとうは1ゼミ8名ずつできれいにばらけるはずなのである。
でも、なかなかそうはいかない。
日本の近現代文学を専攻したいという学生が何人かいた。これは飯田先生が来年度留学のため緊急避難的にウチダのドアを叩いたのであるからやむを得ないけれど、映画やマンガやロックミュージックや演劇や舞踊を研究したいという学生をいやがらずに受け容れてくれるゼミは、うちのほかにはあと二つくらいしか思いつかない。(難波江さんと渡部さんがゼミを開いてくれる2003年度からは、映画や音楽専攻の学生はだいぶ受け皿がふえると思うけど)
たしかに教員たちはそれぞれの専門があって、領域からはずれることをやりたいという学生を責任もって指導することはできないというのは正論である。
しかし、現に学生たちの関心事が既存の学問枠組みからあふれ出している以上、行き場のない学生にはなんだか気の毒である。
いきなりマンガ論や身体技法論にフィールドを拡大するというのは無理でも、文学とか映画とか音楽とかは、「よかったら、うちで見て上げてもいいよ」とある程度門戸を開いて貰えないものだろうか。
鳴門の増田くんがうちにいてくれたらなあとこの三日間何度思ったことか。(17回くらい思った。)
でも、「ロック・ミュージックの音楽美学」なんていう専門の教員の採用は人事計画では絶対に通らないだろう。いちばん学生のニーズの高い領域は何かということはここでは人事の話題にさえならない。こういう専門の先生がいないと「学科としてかっこうがつかない」というような議論ばかりだ。
だけど、大学は大学のためや教員のためにあるのではなくて、学生のためにあるのではないのだろうか。
ウチダはいささか懐疑的である。
文部科学省から博士後期課程の認可が今日おりた。
苦節数年、ついに総文に博士後期課程ができた。何よりも上野先生の必死のがんばりと職員の田中さん石村さん、そして東松事務長の完璧な事務処理のおかげである。原田学長、山田文学研究科委員長、高島文学部長、清水学科長代行にもずいぶんとご面倒をおかけした。膨大な書類を書いて頂いた大学院担当教員の皆さんにも叩頭してお礼しなければならない。そして、博士後期課程を作らなくちゃだめだよ、というアイディアを最初に私たちに叩き込んだ鎌田道生先生と、構想段階で綿密なアドバイスをしてくださった人間科学部の山本先生にも心から感謝を申し上げたい。
別にウチダが作ろうと言って作ったものじゃないんだから「お礼申し上げる」というのはほんらい筋違いなんだけれど、感謝の気持を私がほんとうに感じているんだから、お礼を言ったって別に怒る人はいないだろう。
みなさん、ほんとうにありがとうございました。
このあとは院生を迎え入れ、その子たちを一人前に仕立て上げるという大仕事が待っている。
がんばらねば。
甲野先生からお電話がある。
先生はあとあと岸和田、福井と回って昨日の夜東京に戻られたのである。
女学院での稽古はとても愉しかったそうで、ほんとうに気持のよい稽古ができましたと言って頂いた。
さすが多田先生仕込みの内田先生のお弟子さんたちだけあって、みなさんよく練れていますねとお褒め頂き、ウチダは感動のあまり受話器を取り落としそうになる。
差し上げた『ためらいの倫理学』も旅行中にお読み下さり、気に入って下さったとのこと。今度関西に来たおりに、甲野先生のご友人のドクター名越とお引き合わせ下さるそうである。
それは楽しみなことである。
「最強の精神科医」名越先生には「ウチダ超常現象研究所/除霊します」方面でのご指導をぜひお願いしたいといまから期待している。
カナピョンがすばやく先生にお礼状を出していて、さっそく手裏剣の稽古に余念がない由したためてあったと言う。
「カナちゃんから手紙が来て・・・(にこにこ)」
おお、甲野先生も気づかぬうちにいつのまにか「林さん」から「カナちゃん」へ呼称変更がなされているではないか。
かの達人をして稽古中に二度も苦汁をなめさせた(甲野先生を背中に乗せておきながら捨てて逃げ出した「後頭部強打事件」および袋竹刀の操作を指導中にいきなりしばいた「前頭部強打事件」の犯人)だけあって、その「起こり」の消しかたは、やはりただものではなかったのだ。
さすが女学院合気道部の最終秘密兵器、全魔連会長。
本年度の合気道会MVPはカナピョンで決まりだ。
(2001-12-13 00:00)