12月7日

2001-12-07 vendredi

甲野善紀先生の講演会。
午後3時少し過ぎに、朝日新聞の石井論説委員とごいっしょに甲野先生がタクシーで到着。石井さんは甲野先生の関西方面でのサポーター(っていうのは変かなあ)のおひとりである。甲野先生は周りの人に「ぜひとも支えて上げたい」という気持を起こさせる不思議な吸引力のある人なのである。(別に頼りない人ではぜんぜんないんですけど)

先生は例によって和服に日本刀。
研究室にお迎えしてから、学内をご案内。新社交館でお茶をしてしばし歓談。
講演会の会場にはふだんあまり構内では見かけないお兄さん、おじさんたちが多い。
このホームページを見て来た方もいるし、甲野先生のホームページで関西での講演会があることを知って来た方もいる。(ジャック・メイヨールの橘さんもおいででした。)
科別教授会をフケて清水先生と飯田先生も来てくれた。(そのせいで、あとで学科長の上野先生からものすごく怒られた。「ウチダさん一人ならいいけど、どうして何人も教授会を抜けるの? 大事なことを審議してるんだよ。」返す言葉がない。ごめんなさい。)
四時半から六時半までの予定の講演会だったが、先生の話は面白いし、超絶術技にはみんな仰天して、先生のサイン本に長蛇の列が出来て、ずいぶん時間を過ぎてしまった。

例によって、「いちぜんや」で懇親会。
15人で予約していたのだけれど、店の前で数えてみたら25人。
何人か帰ってもらおうかしらと思ったら、甲野先生が「そんなこと言わないで、みんな来てもらいましょう」と言うので、15名分の席に25人詰め込んで(よくぞ入った)宴会が始まる。
甲野先生のお弟子さんの白石さん(先生の受けを取るはずが、講演会が終わる頃にやってきた不思議なお兄さん)と甲野先生のかけあい漫才的な会話を拝聴しているうちに、松聲館という道場のほんとうにフレンドリーな雰囲気と、甲野先生の人間関係についての深い洞察が伝わってきた。
今日の話で不思議な「シンクロニシティ」を感じたのは、「急がば回れ」というのは、「複雑な経路のほうが単純な経路よりも早く目的地に達する」という意味だという甲野先生の体術の説明を聞いたとき。
私が昨日言おうとしていたのはまさにそのことだ。
なるほど。

愉快な宴会が終わって、甲野先生を芦屋の竹園ホテルまでお送りする。
タクシーの中で「神戸女学院の学生さんたちは、ほんとうに品がいいですね」と感にたえたように感想を言って下さった。
「こういうお嬢さんたちが、まだいたんですね。」
いるんですよ、先生。明日もどかどか来ますから。お楽しみに。
ホテルでチェックインをすませて一礼して帰ろうとすると、先生は小走りに荷物をフロントに預けて、タクシー乗り場まで送って下さり、深々と一礼して私の車を送って下さった。
あれほどの腕があり、あれほどの名望があり、なお、まったく驕るところがない。
甲野先生はほんとうに素晴らしい武道家である。