9月4日

2001-09-04 mardi

曇り。肌寒い。日本でいうと 10 月半ばから 11 月くらいの寒さである。街行く人はもう皮のコートや厚手のジャケットを羽織っている。つい先週 30 度以上あったなんて信じられない。
これくらいに早く夏が終わってしまうのであれば、たしかに真夏の太陽が照りつけるときに、こちらの人々があれほど嬉々として肌を露出して太陽の光を全身に浴びたがる気持ちもよく分かるというものである。
暑い日にはプールでもいこうかしらと思って海水パンツまで用意してきたのであるが、それどころではない。もう長袖を二枚重ね着してもおいつかないくらいに寒い。
その代わり頭はすっきりして仕事は捗る。
午前中ずっと部屋にこもってレヴィナス論の最終章を仕上げる。
ブルーノくん、越くん、祐里さん、サトカッチといっしょにCLAのすぐ裏の「ブザンソンの公務員のための食堂」というところでお昼。なかなか立派なレストランで、テリーヌとスズキの煮付けにフリットとチーズがついて 31F。ブルーノくんがご馳走してくれた。
雨模様の中を越君のマンションまで行って、パソコンをお借りして3日までの日記をフジイくんに送る。これがフランス滞在中、最後の送信である。
たぶん次に来るときは、第三世代携帯電話の時代となっていて、ノートパソコンに持参の携帯をつなぐだけでいきなりインターネットに接続できるようになっているだろう。今回のフランス通信だって4年前には想像もできなかった。
インターネットは世界を劇的に狭くしているということが外国に来てよく分かった。
だいたい越くんが私のようなどこの馬の骨とも知れぬ人間にはいどうぞとパソコンを使わせてくれるのも、彼が私のホームページを見て、私が何ものであり、いかなる研究をしており、家族構成がどうなっていて、子供のときどんな顔をしていたかまで熟知しているからである。名刺の交換も自己紹介もほとんど不要なのである。
吉国さんとの「オフ会」だって、インターネットがなければ考えられないことである。

ホテルにもどって、そのまま仕事を続ける。夕食はパソコンに向かいながら、奇妙なアジアティック食品店で買った「うどん」を啜る。日本製と書いてあるが、なんだか不思議な味。
8時になったので、ブルーノくんと雨の中を『ファイナル・ファンタジー』を見に行く。見に行くといっても、映画館までホテルから歩いて5分。ロードショーなのに値段は 45F(900 円弱)。月曜日は割り引きデーなのでこれが 30F になる。この狭いブザンソンに軒を接して映画館が3軒あって、それぞれがさらに数室に分かれているから、ざっと 20 本くらいの映画を同時上映していることになる。画面も音質も悪くないし、シートはふかふかである。これなら貸しビデオ屋はいらない。
『ファイナル・ファンタジー』はこちらに来る前、日本のTVでさかんに前評判をあおっていたが、いやー。すごい。びっくり。
ただフランス語吹き替えなので、議論しているところとか、細かい科学的な説明みたいのがぜんぜん分からない。
日本に帰ってもう一回ビデオで確認してみるが、まるで違う話だったら二度楽しめる。
筋が分からないので、批評のしようがないが、とにかくみごとな映像であったことだけは確かである。特に主人公の女の子が「はっ」としたり、ほろりとしたり、すねたり、「きっ」としたりという、台詞がなくて表情のわずかな変化や肩の動きや首の角度だけで感情表現するところが実に芸が細かい。とにかく「こんな映画はこれまでなかった」という点で、私の評価は五つ星。