8月26日

2001-08-26 dimanche

日曜日なので、ごろごろしている。(日曜でなくても同じであるが)
ブザンソンはもう5回目なので、いまさら観光をする気分にもならない。(暑いし)
しかしお部屋の掃除があるので、午前中はしばらく部屋を空けないといけない。
めんどうだが Doubs の川沿いにすこし散歩をする。(le Doubs は「ル・ドゥ」と読む。最初は「ドブ川」と読むのかと思ったが違うらしい。)
それから市内をくるっと回って、サン・ジュリアン教会で5フランのお灯明をあげて旅の無事を祈る。私はこの「もよりの教会でマリア様にお灯明を上げて旅の無事を祈る」ということを、スタージュでは毎回やっている。地元の神様に一応ご挨拶をするのである。

「いまから9月8日まで当地に滞在させていただきますので、その間、一行のものがみな無事でありますように、ご加護をお願いします」とお祈りする。(むろんフランス語でお祈りしたのであるが、考えてみたらマリアさまは古代ヘブライ語しか解さないはずであるのに、どこでもお祈りを聞き届けてくださるわけであるから日本語でもよかったのだ。)

お祈りの甲斐あってか、これまでのところスタージュでは一度も深刻なトラブルに逢着したことがない。だから、こういうことは一度始めると、なかなか止められない。
パリでもとりあえずホテル最寄の教会に駆け込んで、お灯明を上げてきた。
日曜なので、店はほとんど休み。Quick というハンバーガー屋でテイクアウトのベーコンドッグ(22F)を買ってホテルに帰る。
途中で美術館にゆくという学生さまご一行とすれ違う。恒川さんが発熱というので、あわててホテルにもどって様子をうかがう。体温計と PL 顆粒を渡して、「お大事に」。
そのまま部屋で夕方まで仕事。
調子に乗ってレヴィナス論をがりがり書きなおしていたら、だんだんパソコンが熱くなってきて、いきなり「ぶちん」とダウンする。
おおおおおおお。これはどうしたことか。
たたいてもゆすってもなだめてもすかしてもパソコンが動かない。
フランスの田舎町でパソコンが壊れたのでは、修理どころではない。
日本語フォントが乗っているパソコンなんかブザンソンに売ってるはずないし...
これではあと 17 日間、まるで仕事にならないではないか。
今日からは原稿用紙に鉛筆で翻訳をするのであろうか。最後に手書きで原稿を書いたのは『タルムード四講話』だから、15 年くらいやってない。とほほ。
まあ、考えてみれば消えた原稿は今日書いた分だけで、あとは FD に落としてあるし、要するに「文房具」が壊れたというにすぎない。まあ、おおさわぎするほどのことでもないか、とあきらめて、そのままベッドにひっくり返って、『猫』を読む。
ときおりがばと起き上がって「もしや」とパソコンをいじりまわすがうんともすんとも言わない。
こりゃだめだ、大の字になってぷふーとため息をつく。
ふと、気づいて変圧器をひっくり返してみると、「異常温度になると通電がとまります」と注意書きがしてある。
ずいぶんパソコンも熱くなっていたから、変圧器も異常温度になっていたのかもしれない。
ふうふうと変圧器を吹いて、熱をさましてから、おもむろに電源を入れると、あらうれしや今度はちゃんと「ぶいん」という懐かしい音がして、パソコンが起動した。壁紙の「けろっぴ」が画面に出たときはおもわずうれし泣き。
ああ、よかった。
変圧器が熱くなるほど仕事をするのはもうやめようとおとなしく本を読んで、ブルーノくんのご来訪を待つ。

今日は中華。学生諸君もぞろぞろとご同行。今夜はフルコースではなく、アラカルトで「野菜ヤキソバ」(Nouille saut1 2 l1gumes) とか「蒸し海老ギョーザ」(Ravioli crevette 2 vapeur) とか「焼き飯」(riz cantonais) などというなつかしの「中華料理のフランス語」を思い出しつつ注文する。
たしか「ラーメン」に類した食物もあって、それは「ヴェルミセルなんたらからんたら」であったと記憶しているのだが、残念ながらそれはなかった。
フランス四日目であるが、学生諸君はすっかり「フランス化」しており、もう何週間も前からいるように、堂々とフランス語でブルーノくんとおしゃべりをして、デザートなんか勝手に選んでいる。まったくすばらしい適応力である。明日から学校は始まるのであるが、頼もしい限りである。
今日のご会食にはブルーノくんのほかに、越くん、ゆりさん、という二人の合気道家と、熊本大学から土木史というめずらしい研究のためにベルフォール大学へ来ている本田くんという大学院生も参加してくれた。
ブルーノくんというすぐれた現地オルガナイザーの奮闘努力のおかげで、ブザンソンには着々と日本人ネットワークが形成されているようである。日本政府はこのグラスルーツの親日家に勲章を差し上げてもよいのではないかと思う。
学生さんたちが帰ったあと、ブザンソン組四人と私でさらにもう一軒。今度は武道の話で盛り上がる。愉快愉快。
また明晩、いっしょにジャッキー・チェンの『ラッシュ・アワー2』を見に行こうと約しつつお別れする。
ウチダ的には実に楽勝のバカンスである。これで日当をもらっているのが申し訳ない。