5月25日

2001-05-25 vendredi

ふにゃーとしてTVをつけたら、NHK で「斬られ役・大部屋俳優 58 歳の心意気」という番組をやっていた。
「あれ、もしかして・・・」と思ったら、やはり福本清三さんのドキュメンタリーであった。
福本さんと TV で出会うのはこれで三回目である。
最初は数年前、『探偵ナイトスクープ』で、次がそのあとの『徹子の部屋』。
私はあまり TV を見ない人間であり、福本さんもあまり TV に出ない人である。
(『暴れん坊将軍』にはよく出ているけれど、ほぼ数秒間の出演である。)
そのわりにはよくお会いする。
ご縁があるのかも知れない。
福本さんは東映の大部屋俳優の「斬られ役」である。
その斬られ方にはある種の「美学」があり、それを高く評価するファンがいる。
『ナイトスクープ』というのは東京では放映していない番組であり、私は 90 年に芦屋に引っ越して、はじめてこの番組に出会った。(私が関西に来ていちばん感動したのは『ナイトスクープ』とやしき・たかじんに出会えたことである。東京で暮らしていた 40 年間、どちらも私はその存在を知らなかった。東京と大阪のあいだには超えることのできない深い文化的クレヴァスがある。)
『ナイトスクープ』はすっかり気に入って毎週楽しみに見ていた。
あるとき、TV 時代劇の斬られ役にとても心に残る人がいるので、ぜひその人がどんな人か知りたいという視聴者からの投書があって、桂小枝が太秦の東映京都撮影所に、それらしき人を訪ねていった。
時代劇の大部屋の人たちに、時代劇の斬られ役でよく「先生」という名前で呼ばれる人がいるでしょう、と訊ねたら「あ、それなら福本さんだ」というので、楽屋にどやどやと小枝が入っていって、メーク中の福本さんにインタビューした。
福本さんのメークが忌野清志郎のメークにあまりに似ているので私はびっくりした。
小枝が福本さんをダマしてフェイクの『徹子の部屋』に出演させる、という悪ふざけで番組は終わったのだが、そのときの「ダマされ方」がとても感じがよかった。
「ひょうたんからコマ」で、それからしばらくして福本さんは『徹子の部屋』にほんとうに出演した。
そのときも私は「サッポロ一番味噌ラーメン」を食べながら、その番組を見て「あ、福本さんだ」とびっくりした。
この人の素晴らしいところは、「斬られ役」という TV の画面の数秒しか映らない役のために全力を尽くし、そのような努力を必ず「誰かが認めてくれる」と信じているところである。福本さんのその信念が TV 視聴者にもちゃんと伝わっていたのである。
よい話である。
私は TV というのはろくでもないメディアだと思っているし、「ろくでもないメディア」の流す「ろくでもない娯楽時代劇」を最後まで見通すだけの忍耐力は私にはない。
でも、福本さんみたいな人がいるのを知ると、そういうアバウトなくくり方はいけないなとも思う。
私たちが生計のために営んでいる生活の場の多くは「ろくでもない仕事」である。けれどもその「ろくでもない仕事」からも、個人の思いの強さ次第で、「輝き」に似たものを引き出すことは可能なのである。
それが「プロ」という生き方の手柄であると私は思う。