5月23日

2001-05-23 mercredi

ピンチである。
ピンチというのは、(アントニオ猪木によると)さまざまな否定的ファクターが「ダマ」になって押し寄せてきた状況を指す言葉である。
それぞれのファクターそのものは単独ではべつに致命的なものではないのであるが、なにしろもつれあって押し寄せてきている。

まず、歯が痛い。
これはつらい。だいたい、首から上の部位の痛みというのは耐えにくいものであるが、私の「弱点」である右の歯茎がまたまた炎症を起こして、弱った歯がぐらぐらしてきたのである。
しかたなく 12 月から半年ぶりに歯医者さんに再びまみえることになった。「歯医者復活戦」である。
歯医者さんは「どうしようかな。抜いちゃおうかな」と怖いことを言う。
歯が痛いので、ちゃんとご飯がたべられない。

膝が痛い。
これも業病。手当はしているのであるが、正座すると痛い。下川正謡会の本番も近いというのに、ちゃんと座れないのでは「謡」にも「舞」にもならない。

インターネットが壊れたまま。
これもいい加減になんとかすればよいのであるが、なにしろ自宅に帰るのが連日遅く、とてもそれからパソコンに向かって悪戦する意欲が残っていない。とりあえず研究室のパソコンは2台とも生きているし、インターネットにもちゃんとつながるので、一日のばしにずるずるしているが、自宅でメールチェックができないと、メールがたまって大変である。

仕事が山積。
金曜締め切りの原稿は書き上げて送ったが、来週のうちに私が片づけなければいけないのは

(1)文部科学省提出書類の書き直し
(2)フランシュコンテ大学夏期講習の準備
(3)自己評価委員会の年間計画の企画書
(4)FD についての原案の策定(FD っていっても「フロッピーディスク」じゃないよ。Faculty Development)
(5)大学院の予算編成
(6)大学院生との懇談会の設定
(7)ゼミ旅行のとりまとめ
(8)電子提案箱運用規程案つくり

などなどである。

書かなければならない原稿はついに「本6冊分」に達してしまった。(もちろん、この3週間、どの原稿も1行も書いてない)
そのあいだに合気道と杖と能楽のお稽古がほぼ毎日入っているのである。もちろん授業もやる。
「バカみたい」と思われる方もいるだろう。「自分で忙しくしてるんじゃないか。」
しかし、原稿を書くことは私にとって「無上の喜び」であり、お稽古は私の「生き甲斐」であり、官僚的作文をすることは私には「おちゃのこさいさい」なのである。
「無上の喜び」と「生き甲斐」と「おちゃのこ」であるにもかかわらず、それらが同時多発的に押し寄せ、そこに歯痛、関節痛、パソコン故障などが加わると、弁証法的な質的変化をとげて「ピンチ」に化すのである。
ピンチの解決法についての猪木の教えは「ピンチを構成しているファクターを一つ一つ解決してゆくこと」というたいへんにまっとうなものである。
ピンチを脱する起死回生の秘策などというものはない。
積もった仕事を一つ一つ終わらせ、痛む箇所を一つ一つ癒してゆくほかにピンチを逃れる術はないのである。
わかっちゃいるけど歯が痛い。
しくしく。