3月8日

2001-03-08 jeudi

年年歳歳花相ひ似たり、歳歳年年人同じからず。
春ですなあ。
何をひとりで興じているかというと、私の知人たちの「劫を経たおじさん」の一人が結婚しちゃったからなのである。
そう、あのI先生である。
ご自分のホームページで公開しているから、別に秘密ではないのであるが、「これから、ずっとひとりでやっていこうねって、みんなで約束した」「極楽スキーの会」バツイチ連合としては、「独居老人孤独死」仲間が一人減るのはいささか悲しいものがある。
しかし、I先生が暖かいご家庭をお持ちになることは素直にお祝いしたい。
ご多幸を祈る。
と同時に、近日中に「孤独死」仲間の補充がありそうだ、という朗報も同時にもたらされている。
ともに喜ばしいことである。
会員の入れ替わりがあったことを機会に、このたび「極楽スキーの会バツイチ連合」を発展的に解消して、正式に「独居老人孤独死友の会」を発足させることにした。略称は VSMS である。La vieillesse solitaire a mourir seuls(「ひとり死ぬことを宿命づけられた孤独な老人たち」)
人は誰しも一人死ぬのである。この存在論的宿命をみすえ、おのれの存在しうることの本来性を大悟徹底するというハイデガー的課題に果然と立ち向かいつつ、「もうすぐ死ぬんだから好きなことやらせてよ」という反論不能のエクスキューズを以て傍若無人不惜身命に現世の快楽を味わい尽くそうではないか、というのがVSMSの趣旨である。
多くの同志の参加を望む。
参加条件は「30歳以上、バツイチ以上」。

ゼミ生諸君からはまだとどいていないが、友人のクスミさんからレポートが届いた。
あまりに面白かったので、転載。

内田ゼミ 春休みの宿題レポート「これで日本は大丈夫?」

私は今とても心配なことがあります。こんなことで本当に日本は大丈夫かって、真剣に悩んでいます。でも、こんなことを考えている人って、まずいないと思います。
私って変なのかもしれません。
それは、私たちの父の年代の人たちが、近い将来集団自殺するのではないかと考え
ているのです。
ふざけて言っているのではなくって、真剣にそう思っているのです。
父はいわゆる団塊の世代ですが、いつも「俺たちゃひどい時に生れた。戦後のどさくさで、貧乏人同士することないものだから適当にくっついて、計画性もまるでないまま粗製濫造されて世の中に放り出されて、食い物と言えば、脱脂粉乳、鯨の大和煮、ボーリングのピンみたいに固いパンの給食がご馳走で、おやつと言えば、大腸菌がいっぱいの真っ赤っかのサッカリン付きアイスキャンデーとか、新聞紙のインクのしみたやきそばとか、変なものばかり食わされてきた。今みたいな食品の有害物質がどうのこうの言われていない時代だったから、きっと今の数千倍の無茶苦茶な毒を食べていたに違いない。最近やたらからだが変なのはそのせいだと思う。学校へ行ってみれば、同世代がうじゃうじゃいて気持ち悪くなるし、先生は乱暴ですぐ殴るし、校舎は兵舎を改造したような薄暗くて汚いところで近視になる奴続出だったし、何より、やたら競争させられて、進学するには今とは比べものにならないくらいの狭き門だった。やっと大学に入ったら、ゲバ棒を持たされたり逮捕されたりするし、やっとの思いで卒業したけど、就職も狭き門で、それでも高度成長の末期だったから何とか入れたと思ったら、すぐオイルショック、それでも頑張ってやっとお前たちが大きくなってひと安心と思ったら、バブル崩壊で日本経済はガタガタ、すると日本経済の構造が駄目で特に駄目なのは団塊の世代だと言われて、おとーさんたちは真っ先にリストラの対象だって。年金もまともに貰えないんだってさ。おとーさんの上の世代の人たちはばっちり貰っているのに、こんな不公平があるもんか。おれたちの世代が何か悪いことしたか、戦争で人を殺したか、何か贅沢したか、えっ、言ってみろ。おとーさん、何か悪いことしたか、ふざけるんじゃねー」などと、毎日酒を飲みながら、クダを巻いて暴れてばかりいるのです。
私は、これ以上父の年代の人たちを社会がスポイルすると、切れてしまうと思います。切れてどうするかと言うと、今の私たちの世代のように、周りの人を殺すほどの勇気もない、臆病で、小心で、いじけた年代の人たちなので、きっと開き直って「養老院も特別擁護老人ホームもいっぱいじゃねーか、どこまで馬鹿にするんだ、ぐれてやる、不良になってやる、死んでやる」なんて叫びながら、次々に首をつったりして自殺するのではないかと思うのです。
そうなったら、日本は、団塊の世代がいなくなって、いびつな人口ピラミッドになります。自殺でも、生命保険は一年以上かけていれば出ますので、生命保険会社は軒並み倒産します。そうでなくても日本の金融界は危機的ですから、生命保険会社壊滅となれば、日本はクラッシュします。「これで日本は大丈夫?」どころの話ではありません。
内田先生は、こういう事態が発生した歴史的、構造的な要因をほりさげ、かなうことなら、それに対する適切な対応策についてまで言及するようにとのことですが、歴史的、構造的な要因は酔っ払いの父の言う通りだと思いますし、私は、戦争のすぐあとの世代が日本においてどんなに不幸だったかということを、酔っ払いの父の味方をするわけではありませんが、もっと日本人は知るべきであると思います。あまりに父が可愛そうです。母には粗大ゴミのように扱われてばかりですし。
適切な対応策について言及します。団塊の世代の男(男だけで女はいいです)のリストラは、法令を以って禁止すること、年金は前払いで、割り増しで支払うこと、養老院は豪華な施設を造ってあげること、などを、緊急に国会で決議し、関係法令の整備を急ぐべきだと思います。そうすることで、団塊の世代の人たちの集団自殺を食い止め、日本の崩壊を未然に防ぐことができます。これこそ、もうすぐ首になる森総理大臣が念仏のように唱えている IT 革命とやらより、もっともっと重要かつ緊急に為されるべき政治課題であることを確信します。
それにしても、毎日毎日酔っ払いの父の愚痴を聞いていると、涙が出てきます。内田先生も父と同じ世代だと思いますが、うちの父と同じようなお気持ちなのでしょうか。
くれぐれも先生におかれましては、団塊の世代の集団自殺の仲間入りをなさいませんように、少なくても私が先生のゼミを終えるまでは、早まったことをなさいませんように、このこと、伏してお願い申し上げる次第です。
まこと精神異常のようなことを書き連ねて失礼いたしました。お気分を害されませんように。ご本買いますから、及第点下さいね。(文字数 2021)

かしこ


 
レポートありがとうございました。
でも、ウチダはあなたとはちょっと意見が違います。
人口ピラミッドが多少いびつでもべつに誰も困りませんし、日本の生保業界は鬼のようなところですから「団塊世代集団自殺」は阪神大震災と同じように「内乱・革命・天災」に準じる事案として処理して、保険料不払いにすることは確実ですから、金融の混乱の心配もありません。
それに、自殺するよりさきに、団塊世代は幼児期からためこんだ発ガン性物質のせいで、50歳をすぎたあたりからばたばたと死んで行くはずです。
いずれ私たちの世代が存在したことそのものが歴史的な「ボタンのかけちがい」のようなものとして忘れ去られてゆくでしょうから、団塊の世代が集団的に消滅しても「まるで日本は大丈夫」ですから、どうぞ、ご安心下さい。
お父さんにはたっぷり生命保険をかけて、毎日お酒やあぶらっこいものを食べさせてあげてください。きっと「なんてかわいい娘なんだ」と泣いて、お母さんではなくて、あなたを保険の受け取り人にしてくれると思います。
がんばって、いいこぶってください。