2月14日

2001-02-14 mercredi

石川康宏先生の「ワルモノ」サイトを毎日拝見しているのであるが、先生の東奔西走の講演旅行ぶりにびっくり。先日などは北海道日帰りである。今週は島根。そのあいだに古代史研究までしている。なんと活動的な方なのであろう。
小林昌廣先生の超多忙研究生活もすごい。私ならスケジュールを覚えることさえできぬであろう。
飯田祐子先生もいつ会っても「ああ、締め切りが・・」と小走りに駆け抜けて行く。締め切りを過ぎる前に仕事を済ませればよいのではないかと思うが、よけいなお世話なので黙っている。
そのようなご多忙な先生がたとわが身を引き比べたとき、「おれはいったいなにをしているんだ・・・」と自責の言葉が思わず洩れるのである。
一日10時間爆睡。一日三食爆食。お三時のあとは「ワイドショー」を見ながらうとうと。日が暮れるととりあえずワイン。バカ映画を見ながらウイスキーを爆飲。仕上げはマンガを読んでから落語を聴きつつ眠りにつく、というような生活をしていて、よいのであろうか。

よいはずがありません。
これではまずい。

これではまずい、と分かっているのであるが、「レヴィナスがフッサール現象学のどこに限界を見たか」という重い主題を考えているので、すぐに頭がオーバーヒートして「ぷすん」と止まってしまうのである。
止まるととりあえず「甘いもの」を補給する。
あまり知られていないことだが、人間の身体臓器のうちで、もっともカロリー消費の高い器官は「脳」である。
脳を働かせるためには高カロリーの補給が必要である。
ダイエットをするとバカになる、というのは本当である。
カロリーが不足すると、まっさきに活動を止めるのが脳なんだから。
思考が停滞すると、私はとりあえず甘いものを食べる。(「あんこもの」ね)
私が研究室で「あんドーナツ」などをぱくぱく食べているのを見て、不意を襲った学生などが「あ、先生って甘いもの好きなんですね」というような気楽な印象を語っているが、それは違うのである。あれは、「思考が活動停止したので、必死になってカロリーを補給している」という、ガス欠の自動車にガソリンを給油しているにも似たたいへんに壮絶な光景なのである。
それから尾籠な話であるが、(これは前にも書いたことがあるが)私は論文執筆中に頻繁に「排○」を行う。これはもう想像を絶した回数(午前中だけで七回、といったペースで)にのぼるのであるが、とくに論文の「やまば」を迎え、脳にターボチャージャーがかかってきな臭い匂いが鼻腔の奥を刺激するような状態になると、かならず○意が訪れるのである。そして、そのたびに大量の○を体外に放出するのである。
これはいったいどういうことなのであろうか。
本屋で書棚をみているうちに○意を催すという人はたくさんおられるのであるが、論文執筆中や翻訳中に脳がレッドゾーンに入ると○意を催すという事例を私は寡聞にして知らない。
ともあれ、そのせいで、論文執筆中には体重がどんどん減る。
脂肪が減るのであるから、カロリーの補給がさらに必要である。
それゆえ、「あんドーナツ」や「クリームパン」のようなものが大量に消費せらるるのである。
しかるに、甘いものとはいいながら、侮れないもので、これを大量に摂取したのちには必ず睡魔というものが襲ってくるのである。
かくして、論文執筆→排○→カロリー補給→昼寝という四行程をサイクルとして、私の研究時間というものは回転しているわけである。これを一日に3セットほど繰り返すと、ときはすでに夕闇迫るころとなり、心身はその疲労の極限に達し、息も絶え絶えとなっているわけである。
そのような人間がひとときの安らぎを求めて湯上がりにビールを頂いたり、暮れなずむ大阪湾を見下ろしながらワインをきこしめしたりすることを誰が止められよう。
少なくとも私には止められない。
かくして晩冬の一日は暮れて行くのである。