11月14日

2000-11-14 mardi

不眠日記」の小川さんにはほんとうに申し訳ないが、毎日「爆睡」している。
一昨日は11時間、昨日は9時間半。まだまだ眠れるが、仕事にいかないといけないので、やむなく起きる。ああ、寝るより楽はなかりけり。
私の父は88歳であるが、父の説によると、人間は年を取るにつれて寝る時間が長くなり、そのうち一日24時間寝るようになるのが「ご永眠」なのだそうである。
前向きな考え方だと思う。
私も壮絶な不眠症を二度経験したことがある。二度目のほうがひどくて、薬を控えたために、まったく一睡もできない日が二日続いたことがあり、このときは(いまの小川さんとおんなじで)全身が痙攣した。
もう起きあがる気力もないのだが、横になっていても眠ることが出来ない。その日は教授会で昇任人事の報告があって、這ってでも大学にいかなければならない。這うようにして大学に行き、教授会に出た。用意した原稿を読み上げただけなのだが、声が震えて、原稿をもつ手もぶるぶる震えていた。あれはまさに生涯最悪の一日(のうちの一日、ほかにも100日くらいある)であった。
というわけなので、小川さんの不眠の苦しみはよく分かる。
よく分かるけれど余人にはいたしかたもない。
「売れるものなら、私の睡眠時間を売って上げたい」と心底思うのである。
そこで「1時間1000円でどうかね」と申し出たのであるが、ご本人は「高い」というお答えであった。
たしかに8時間の睡眠時間に8000円は高い。(それに、そんなに買われたら、私の睡眠時間がなくなってしまうし。)
誰か「これでどんな人でも眠れます」という秘訣があったら教えていただきたい。
私の知り合いに、「枕元でひとびとが宴会をして騒いでいると眠れる」という不眠症患者がいる。これはたしかに不眠症患者の感じる社会からの孤絶感を緩和する効果はありそうである。
「死ぬほどつまらない講義を我慢して聴く」というのも効果的であるように思われる。
たしか小川さんはそのむかし私の「フランス文学」の講義のときにいちばん前の席でよく熟睡されていたかに記憶している。
教授会の昇任人事の第二読会というのも、たいへん眠りやすい環境であるが、残念なことに、これは一般公開していない。