10月25日

2000-10-25 mercredi

ベルギーのK井さんからお葉書が来ましたので、ご紹介します。

Bonjour

お元気ですか。私は無事コンセルヴァトワールの入試に合格しました。当日緊張ぎみであまり思うように弾けなかったのですが、結果は92点で合格しており、意外です。
10月1日から学校が始まり、ピアノの他に室内楽、ソルフェージュ、Harmonie, Analyse, Histoire, Lecture をとり、フランス語がたいへんですが、毎日楽しいです。発見があって・・・ではまた近況を書きます。お元気で

リエージュにて、K井K奈

K井さんは奇人変人の多い私のゼミの卒業生のなかでも、きわだったひとである。
なにしろ文学士のピアニストなのである。
ふつう、ピアニストというのは芸大とか音大とかに進学するのであるが、彼女は神戸女学院の文学部に来て、フランス映画で卒論を書いた。
ピアノがうまいということは伝え聞いていたが、在学中はピアノにほとんどさわらず、彼女の「情熱的」なピアノ演奏を聞いたことがあるのは何人かの寮生たちだけである。
私にとっては最初のフランス語学研修に来た「目の大きくて細い女の子」という印象が強い。
大阪空港に行く途中の十三の駅で大きなトランクを必死でひきずっている姿をみかけて、そのままおしゃべりしながらフランスまで行って、すっかり意気投合して、ブザンソンでもわいわい騒ぎ、ベニスではダブル・オガワさんといっしょにリドの海岸で「ベニスに死すごっこ」をしたりして遊んだ。
卒業後、故郷でピアニストデビューをはたし、地元のFMでは人気もの、という噂をつたえきいたが、はじめてコンサートを聞いたのは二年前のことである。サンクト・ペテルスブルク室内楽団をひきつれて、赤いドレスの裾を翻したK井さんはゴージャスにがんがん弾きまくり、最後は楽団員たちに「女王さま」のように手の甲にキスなんかさせて、えばっていた。
まったく、うまいものである。あまりのことにすっかりたまげてしまった。
去年ご結婚されて、ゼミ生いちどうぞろぞろと福山まで行って、いろいろ面白いことがあったのであるが、実はそのときにはすでに(親に内緒でうけた)ロータリーの留学生試験に受かっていたのである。ふつう結婚式をまじかに控えて留学生試験受ける花嫁はいないぞ。
とはいえ、私はK井さんの留学生申請書類のすべてのフランス語を書いたひとなので、その共犯なのである。新婚の花嫁をベルギーに送り出したご夫君の気持ちを思うと、ちょっと心が痛むが、まあ、K井君には彼の地でがんばってもらいたいものである。凱旋公演をたのしみにしておるぞ。