9月13日

2000-09-13 mercredi

台風一過で秋晴れである。
そういえば、「子どもの頃、勘違いしていたことば」として都市伝説化しているものに「台風一家」と「月極駐車場」がある。(「台風一家」とは「台風はぞろぞろとやってくる」という意味だと思っていたひとがいる、という話。「月極駐車場」は「げっきょく」さんという人が全日本に駐車場のチェーンを展開している、と思っていたひとがいる、という話。ほんとうだろうか。)
私の最大の勘違いは「血の検査」である。
小学校二年生のとき、「明日は『血の検査』があります」という先生の告知があった。ところが私は風邪をひいて翌日学校を休んでしまった。翌々日学校に行ったら、「ウチダ君は昨日休んだので、ひとりで別室で『血の検査』をしてもらいます」と担任の先生が冷ややかに宣告した。
私は全身の肌に粟を生じた。
保健室のようなところに招じ入れられ、そこに座らされた。先生は、なんだかよく分からない紙のようなものを渡して、そこにいろいろと記入しろ、と命じて出ていった。私は隣室から聞こえてくる、押し殺したような教師たちの声に怯え、注射器がずぶりと腕に刺さる痛みを想像して冷や汗を流し続けた。
やがて時間になって教師が「はい、おしまい」と言って、苦痛の想像に疲れ果てた私を帰してくれた。
というわけで小学校時代、私のIQはなんだかめちゃくちゃな数値だったのである。

台風のせいで名古屋地方にずいぶん被害が出ている。
西枇杷島町というところが特に被害が大きい。
西枇杷島町は合気道部二代目主将、嵐裕美子さんのお住まいのあるところである。夕刊を読んで「おお、これは」と案じていたら、高橋奈王子さんが電話して向こうの様子を調べて、私にも知らせてくれた。
嵐さんのところはマンションなので、浸水の被害はないそうである。ライフラインも生きているので、ちゃんとご飯をたべて暮らしているらしい。自動車が冠水しそうになったので、高台に避難させただけですんだということである。
とりあえず、ほっとする。
「うちに浸水したらどうする? 何もって逃げるの?」
とるんちゃんが夕食のトンカツをかじりながらたずねる。
御影の高台のマンションの6階に浸水するときは、近畿一帯は海の底である。ノアの洪水のような風景を思い浮かべる。預金通帳と実印をもって逃げても使い道がなさそうである。