7月6日

2000-07-06 jeudi

日本のこの時期は亜熱帯だ。
亜熱帯で知的営為をおこなうことは、亜寒帯で海水浴をするのと同じように無謀であり、人間の本性に背馳することであると私は思う。
あたまから水をかぶったように全身汗まみれとなってどろどろ歩いていると、自分が人間ではないなにものかに変化しつつあるような気がしてくる。
大脳皮質が活動を停滞させ、脳幹の奥の方の「ワニの脳」がうぐうぐとうごめきだしてくる。
夏は「ワニの季節」である。
この時期、私があらゆる約束を反古にし、期待をうらぎり、いるべき場所から遁走し、昼日中からビールをのんでビーチボーイズを聞くような「だめなワニ」に変容することについて、関係各位にあらかじめ警告を発しておきたい。
夏の間、あなたが出会っているのは私ではなく、私の「ワニムス」というものである。
ご存じのように「ワニムス」とはかのユングが人間の魂の奥底に見出した原始の心性のことである。「ワニムス」を(ときどき台所でワインなんかのみながらスパゲッティをゆでている)「ワニマ」と混同することはいやしくも精神分析の基礎知識を備えたものの犯してはならない誤りである。(「ワニマ」は私の場合、四季いつでもエプロンをしたとたんに出現する。)
ワニムスにむかってダイエットの必要を説いたり、禁煙をすすめたり、きみは締め切りというものをどーかんがえておるのかね、とか暴力はいかんよきみ、暴力はなどと諭しても無駄である。
ワニには超自我なんてないからである。
お、いいな「ワニに超自我はない」。
『猫に未来はない』に匹敵する名コピーかも。