6月7日

2000-06-07 mercredi

最近、芦屋市のお母さんたちからよく電話がかかってくる。
青少年センターの「ガイド」のトップに「合気道多田塾」が出ているからである。(五十音順だからね)ほかに大東流系の古武道と気の研究会がある。
で、お母さんたちはある日市役所とかそういうところで、ふとこのパンフを手にとって
「あら、うちの子にも、なにか運動させようかしら。いっつもゲームばっかりしてて、ころころ太ってるから」
などと思われるのであろう。
すると「合気道」の文字が眼に飛び込んでくる。
「こ、これだ」
ということになって、早速電話がかかってくるのである(と想像していた。)

昨日もかかってきた。
稽古日や稽古の進め方について簡単にご説明したあと、「おいくつの方ですか?」と尋ねたら「四歳」ということである。

あのね、
四歳はちょっとむずかしい。
おじさんたちと一緒には稽古できない。

しかし、それでがちゃんと切るのもなんだか悪い。せっかくのご縁である。
「あの、つかぬことを伺いますが。なぜ、四歳のお子さんに合気道を習わせたいとお考えになったのですか? 差し支えなければ、お聞きしてよろしいでしょうか。実は、同じ様なお電話をこのところ頻繁に受けるものですから・・・」
すると、このお母さんは、驚くべき(でもないか)事実をご教示下さった。
お母さんがおっしゃるには、就学年齢に達する前に「自分の身を守るだけの技術を身につけさせたい」というのである。
六歳で小学校に入ると、そこで子どもを待ち受けているのは「戦場」であり「カオス」であって、そこでは自分で自分を守り抜く以外に、身体も、プライドも、秩序も、誰も守ってくれない、ということをこのお母さんたちは「事実」として受けれているのである。
学校になんとかしろと頼むことも、地域社会を再建しましょう、とかそういう根本的な対策ももちろん必要なのだろうが、そのような迂遠な対策を待たずに「いじめ」や「恐喝」の現実は待ったなしで子どもたちに襲いかかってくる。
せめて「我が身をる」技術だけは身につけさせたい、という切ない親心である。
以前は「一流大学に進ませたい」という願望ゆえに就学前から子どもを学習塾に通わせる親が問題になったが、これはそれよりずっと深刻な事態である。
立身出世はかなり遠くバーチャルな目標である。しかし、知的にも制度的にも崩壊過程にある学校で、子どもたちを待ち受けている暴力とアナーキーはただちに直面せざるをえないリアルな現実である。
誰にも頼らず自分の身を守る能力のほうが、成績がどうこうとかスポーツがどうこうということよりもずっと切実に必要となっているのだ。
ワイルドな時代だ。
わかりました。すぐには無理ですが、なんとかご要望に応えられるように考えてみます。
と答えて電話を切った。
うーむ。
大学の教師なんかのんびりやっているときではないのかもしれない。
地域の子どもたちに武道と日本の伝統文化を伝えてゆくことがあるいは教育者としての急務なのかもしれない。
その方がむしろ私のような人間が「世間のお役に立てる」あり方なのかも知れない。
青少年センターに寄って調べたら、平日の昼間は柔道場がだいたい空いている。
時間割に余裕があれば(ないけど)、平日の昼間に「子どものための合気道教室」を開こうかと真剣に考える。(真剣になるなよー)