6月6日

2000-06-06 mardi

小林昌廣先生のお弟子さんからメールがきて、「小林昌廣先生のオフィシャル・ホームページをつくったので見に来て下さい」というご案内があった。さっそくお尋ねする。
このお弟子さんは大阪芸大の学生さんであるが、「小林先生は完璧なお師匠さま」と深く帰依されており、ついにその偉大なお師匠さまの福音を世界に発信すべくホームページ開設とあいなったのである。
ホームページには小林先生のプロフィールや著作目録や「今日のお言葉」などのコーナーがあって、お弟子のみなさんの熱い思いが語られている。
うらやましい限りである。
私にも各種のお弟子たちは少なからずいて、このホームページをつくってくれたのだって、フジイ君なんだけど、私にかわって私の業績目録をつくってくれたり、「内田思想(そんなのないんだけど)世界に発信」してくれたりするお弟子さんはいない。
みんな私の研究室に乱入してきて、あれを買ってきて、これを直しといて、これに手を入れておいてね、この書類を明日までに英語にしてね、このメッセージをフランスに国際電話しておいてね(勘定は先生持ちで)、などと私に用事を言いつけて立ち去るばかりである。(あとでヨーカンくれたりするけど)
確かにそのような頼まれ仕事の過半は、学生さん本人の手には負えなかったり、また時間も費用もかかるが、私がやればちょちょいのちょいで済んでしまう類のものである。
それを思うと、「やだよ、自分でやんなよ」とは言いにくい。
それに、こういう「隙間」のサービスというのはほんらい私の得意とするところで(業界用語では「ニッチ・ビジネス」というのだそうである)、過去25年間、ビジネスでも本業でも、「隙間」で稼いで今日まで暮らしてきたのである。「便利屋さん」こそはご恩のあるビジネス・スタイルであり、いまさら「おいら便利屋じゃないやい」とか啖呵を切るのは天に唾するふるまいといわねばならない。
それに「先生のお仕事を代わってやってあげましょう」とお弟子に言われたって、よくよく考えると、頼む仕事もないし。(お風呂場の掃除くらいかね)
まあ、小林先生も「オフィシャル・ホームページ」なんかつくってもらったせいで、ただでさえ忙しいのに、それに加えて毎日「今日のお言葉」を書かなければいけなくなって、ほんとうはつらくて泣いているのかもしれない。
しかし鈴木晶先生といい、小林昌廣先生といい、死ぬほど忙しいひとにかぎって、ホームページなんか作ってますます身を削ってゆくのはどういう「業」の深さなのであろうか。
あ、鈴木先生「バレエの魔力」けらけら笑いながら読んでおります。読んだら、感想文書きます。(みんなも読みましょう。古田君も買いなさい。)