4月6日

2000-04-06 jeudi

今年は大学院の比較文化論で「日本文化論」論をすることにしている。
日本文化論ではなく「日本文化論」論である。
政治単位としての国民国家と固有の国民文化というものが一体となっており、政治的国境線と文化的な断絶線が重なっていると信じて怪しまない、というのは、当然のことだけれど、近代イデオロギーの効果である。
もちろんそんなことはちょっと気の利いたひとはみんな知っている。
だから、「日本文化論」というような言説の立て方そのものが、あたかも「日本文化」なる固有の実体が存在するかのようなプロパガンダの実践そのもののであり、国民国家のアイデンティティを自明視する体制的思考なわけよ、というようなことを言う人がたくさんいる。
私はそれが間違いだと言っているわけではない。
ただ、いい年をしたおじさんやおばさんがそういうことをとくとくとしゃべっていると、なんとなく顔が赤くなってしまうよ、というだけのことである。そういうのは中学生くらいが言うと賢く見えるんだけどね。
イデオロギーはほとんどの場合、真理よりはるかに堅牢な現実的基盤の上に立っている。
第三帝国とかプロレタリア独裁とか文化大革命とか尊皇攘夷とか八紘一宇とか大学解体とか、そういうものはぜんぶただのイデオロギーである。にもかかわらず、そのような妄想、幻想が人を動かし、社会を揺るがし、歴史をすすめてきた。
イデオロギーにうまく乗った連中は権力や財貨を手に入れ、イデオロギーに抵抗したものたちは辱められ、奪われ、殺された。
国民国家にかかわるイデオロギーは歴史認識としても政治的指針としても多くの場合不適切であるが、それが不適切であることは、大衆的な支持を得て、政治的に現実化することをこれまで妨げなかった。
国民国家と国民文化にかかわるイデオロギーは、他者を辱め、奪い、殺す権利を手に入れる「チャンス」を提供するからである。
世の中には、自分には他者を辱め、奪い、殺す権利があたえられてよいはずなのに、与えられていないということに不満をもっているひとたちがうんざりするほどたくさんいる。この人たちにとってイデオロギーは「他人をこずきまわす」立場を手に入れるほとんど唯一の希望である。
社会的ニーズがある以上、イデオロギーの追随者にむかって「君はイデオロギッシュだ」と言ってみても何にもならない。自分が信じている(ふりをしている)ものがフィクションであることを彼らだって(無意識的には)知っているからである。
だからイデオロギーにかかわる人間には三種類いることになる。
「イデオロギーを(無意識的に)利用しているひとびと」と「その人たちに向かって、高みから、『おまえはバカだ』と言っているひと」と「相手が『マトリックス』の中にいるなら、自分もそこに飛び込んで、そこで勝負を決めるしかないと思っているひと」である。
簡単に言えば「バカ」と「中学生」と「大人」の三種類である。
「日本文化論」を論じるとき、「日本文化は世界に冠絶してすばらしい」と声高に言い募っている人間は「バカ」である。
「日本文化というような固有の実体があると思っているのはバカだ」と言っている人間は、気の利いた中学生程度の賢さである。
「日本文化というような固有の実体があると思い込んでいる人間たちを何とかしないと厄介なことになるので、ここはひとつ口裏を合わせて、『そうですね、日本文化、大事にしたいですね』とにこにこしておいて、『よりましな幻想的構築物』を『おお、これこそ日本文化の神髄ですよねえ』と大仰に感心してみせて、ずりずりとモノをすり替えてゆく」というのが、ものの分かった「大人」のとるべき道である。
というわけで、私の「日本文化論」論は、日本文化についての言説をこの三種類にカテゴライズして、「バカの日本文化論」「気の利いた中学生の日本文化論」「ものの分かった大人の日本文化論」それぞれについて、その生成過程と構造を解明せんとするものなのである。
しかし、この仕事は簡単にはゆかない。というのは、「ものの分かった大人の日本文化論」と「バカの日本文化論」は字面だけを見ていると、けっこう識別しがたいからである。おまけに、「もののわかった大人の日本文化論」と政治党派の文化政策もシニスムという点ではかなり似た構造をもっている。
もちろんこれらをきちんと識別する手だてはあるのだが、長くなるので、今日はこれまで。

拝啓
桜のつぼみもふくらみ始め今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょう。
さて、神戸女学院大学合気道部第三代主将の海老澤邦子さんがこのたびめでたく華燭の典を挙げることになりました。つきましては、学生時代の友人たちのための披露宴を下記の要領で行います。来年創部10年を迎える合気道部草創期を支えた「えびちゃん」の慶事を賀すべく、合気道部関係者のみなさんに万障お繰り合わせの上ご来駕賜りますようご案内申し上げます。

とき:4月8日(土)12時〜15時(11 時より受付)
ところ:神戸女学院大学同窓会館
会費:全員料理一品持ち寄り

神戸女学院大学合気道部顧問

内田 樹

〒657-0022 神戸市灘区土山町 8-35-611
tel&fax:078-821-1457
fwgh5997@mb.infoweb.ne.jp
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife/3949/
* 当日は午前11時から会場準備、午後4時まで片付けがありますので、現役部員の諸君は全員お手伝いすること。よろしいね。

というわけで今年度冒頭を飾る合気道部の一大イベントのために、ホームページでこのように宣伝しております。
2001年4月で合気道部も創部10周年。それに備えて、いろいろと記念行事を予定していたのですが、「海老ちゃんの結婚披露宴」というかたちで前夜祭が始まることになったわけです。その他予定している記念イベントは

(1) 十周年記念大宴会
(2)歴代主将による十周年記念サイバー座談会(BBSでやる。もう局部的に始まっているけど)
(3) 「部旗」の作成

であります。
以外とつつましい。