1月21日

2000-01-21 vendredi

今年度の入試の志願が締め切られた。
阪神間の女子大全体の壊滅的な状況のなかで、どこまで本学が「定員割れ」に耐えて、踏みとどまれるかをうらなう重要な数字である。
さいわい、締め切りが終わった段階で、文学部総合文化学科は前年度並みを確保して、とりあえず教員たちは胸をなで下ろした。
来年からは公募推薦も導入を検討しているし、県下の高校を教員たちが「営業」してまわる、という積極的なマーケットの掘り起こし策も企画されている。できれば、来年からは「攻勢」に転じたいものである。
しかし、総文以外の学科は昨年比 20-30% 減という悲惨な数字である。
いま何もしなければ、来年以降はさらにこの凋落傾向が加速するだろう。すべてのセクションで、大胆で開放的でアイディア豊かな自己変革に賭ける以外に、本学が生き残る道はないと私は思う。
しかし、変化を恐れる人が大学内部には少なくない。
いや「変化を恐れる」という言い方は厳密ではない。
「変化していることに気づかないひと」というべきだろう。
あらゆる社会組織は有機体と同じように生成し、変化し、死滅する。それは常識である。大学が例外であるはずがない。現に、私たちの大学だって出来たのはわずか50余年前であるにすぎない。
そのあと、英文学科から社会学科が枝分かれし、さらに家政学科が分岐し、それが家政学部となり、さらに人間科学部となり、社会学科は総合文化学科に・・・とわずか半世紀のあいだに、これだけ劇的な変化を遂げていて、その生成変化の先端として現状がある。そうである以上、この現状が固定的なものであるはずがない。
現に、私たちの知らぬ間に、私たちの意思を介在させることなしに大学は変化をしているのである。(18歳人口の推移なんて、私たちの意思でどうこうできるようなファクターではない)
その変化がどのようなファクターによって生じているのか、どのような方向に大学を導こうとしているのか、私たちの仕事は、それをいかにクールに適切に「読む」かだけである。
しかし、私たち自身もまた歴史的生成の渦のうちにある、という認識を持つことができないひとたちがいる。
彼らは昨日と同じこと、一年前と同じこと、5年前と同じことを言い続けている。そして、そのように一貫性をたもっているがゆえに「自分は変化していない」と信じている。
しかし1946年にある立場をとることと、2000年にその立場を繰り返すことは、すでにその歴史的意味を異にしているという平明な真理を彼らは忘れている。10年前であればきわめて冒険的であったはずの提案が、現在ではまるで時代遅れの妄言であるような状況的付置の変化がありうるという単純な事実を彼らは理解していない。
彼ら自身は不動のつもりでいても、時間の流れは彼らが全体の構図のなかで占めるポジションを刻一刻と変化させてゆく。そのようにして、彼らは歴史の舞台を走りまわることを強いられている。それなのに、そのように走り回りながら「私は走っていない」と彼らは悲鳴をあげているのである。
困った人たちだと思う。
改めて言うまでもなく、「自分が自由に思考していると信じているときにこそ、私たちはそのように思考することを構造的に強制されている」という認識はあらゆる学術を基礎づける知見である。ドクサとかイデオロギーとかパラダイムとか、言葉はかわっても、プラトンからポストモダニストまで、その認識においては全員が一致しているはずである。
自分が主体的にものを考えていると思っているときにこそ、私たちはそのように「考えさせられている」。私が語るとき、それは、私を通じて、もっと共同的な水準に通じる何かが語っている。私が大学改革を提言するとき、それは私のアイディアではなく、ある社会構造のなかで私にふられた「台詞」であるにすぎない。
私は決められた「台詞」をしゃべっている。私はミザンセーヌに従って「舞台」を走り回っている。
そして、彼らもまた「台詞」をしゃべっており、「舞台」を同じように走り回っている。
私はそのことを知っているが、彼らはそのことに気づかない。
わずかな違いだ。見た目は同じだ。
しかし、「次の」台詞、「次の」立ち位置、「次の」舞台装置、を「読む」ことが緊急に必要であるような場面では、このわずかな違いが大きな違いになることもある、と私は思う。

おしらせ:
いよいよ明日「武道シンポジウム・武道をめぐる批評の言語」
うっかり試験期間中に設定してしまったので、学生さんたちの集まりがあまりよくないかもしれない。せっかく平川君に東京からわざわざ自弁でお越し願うのに、客がいなくては申し訳がない。
みなさーん、見に来て下さいね。
現代武道のスポーツ化を批判し、武術的身体運用を通じての「世界」と「身体」の臨界経験の言語化を試みる三人の武術修行者によるトーク・バトル。杖術、空手、合気道の演武ヴィデオの上映もありますし、平川君は空手の型もご披露下さるそうです。

鬼木正道(神道夢想流杖術)
平川克美(松濤館流空手)
内田 樹(合気道多田塾)
とき:1月22日(土)14:00 - 16:00
ところ:JD館大会議室