17 nov

1999-11-17 mercredi

ゼミ二期生の井手由記子さんから本がとどいた。
『いつもありあまるほど』(コトバ ide, カタチ Tomoko Ishida, 郁朋社、¥1,000)
井手さんがテクストを書き、石田さんが絵を描く。女性ユニットの作品である。
井手さんは卒論に現代フランス哲学を選んだだけあって、テクストはなかなかに哲学的である。そこに底流しているのは、「あなたの言語の限界があなた世界の限界である」というウィトゲンシュタイン的な省察である。井手さんは詩人なので、そのことをもっと柔らかく、軽やかな語調で語る。

たとえばこんなふうに

「さがしていたものは もうここにある。今までの中に今日のこの中に。」

「なにがあっても
なにもなくても
いつでも
どこでも
ほしいだけ
そしてそれ以上」

あるいは

「すべてがクリアーにならなくても大丈夫。
不安に思うことがあっても
それは僕を困らせるためのものじゃない。」

「僕」という男性のための一人称単数を使っているところから類推するに、井手さんは「自己表現」ではない、「だれのものでもないエクリチュール」をつかみかけているようである。
石田さんのシンプルで暖かいデッサンもテクストとよくなじんでいる。
ゼミ出身の文学者第一号、井手さんの今後の活躍に期待します。