8 Oct

1999-10-08 vendredi

ああ痛かった。
いろいろ各方面にご心配をおかけしましたが、なんとか腫れは引きました。
でも根本的に歯茎が痛んでいるので、テッテ的な治療が必要なようで、もしかすると奥歯を二本抜かれてしまうかもしれない。
「どうしてあなたこんなに歯茎が弱いのだろう・・・何か悪い遺伝でもあるのかな」
と以前通っていた歯医者さんも言っていた。従兄のつぐちゃん(はばら歯科)も同じことを言っていた。
黙っていたのだが、実は理由があるのである。
私の奥歯の歯茎が異常に痛んでいるのは、私がものすごい「歯ぎしり」男だからなのである。
私はふだんは温厚で人当たりの良い人間であるが(こら、誰じゃい、くすくす笑う奴は)そのような外面を取り繕っているせいで、生来の邪悪さが夜半に夢魔となって出現し、私の夢はしばしば内臓や血が飛び交うスプラッタとなる。(もちろん私は被害者ではなく、チェーンソーを振り回したり、鉈を誰かの頭に振り下ろしたり、日本刀で誰かの腹を断ち切ったり、もうめちゃくちゃな暴力をふるっているのである。)
全身血塗れとなって邪悪な哄笑とともに夢から覚めて、「や、おはよう」とにこにこ市民に変貌するのである。
おそらく、そのスプラッタのさなかに私はものすごい形相で手足を振り回し、歯ぎしりをしているものと推察される(歯ぎしりのすごさについては、幼少時より、家族や旅行の同宿者から悲痛な訴えをたびたび聴かされた。)
夢の中であれだけ多くの人を殺害しているのであるから、その怒りと憎悪が奥歯に非人間的な圧力を加えているのは怪しむに足りない。
しかし、これは私がふだん「いい人ぶっている」ことの代償であり、歯茎を救うためには、この偽善的態度をかなぐり捨て、邪悪で暴力的でエゴイスティックな私の「ダークサイド」に市民権を譲らねばならない。(そうすれば眠る私は天使のごときほほえみをうかべていることであろう。)
いわば「歯茎をあきらめますか、人間やめますか」という究極の選択を私は迫られているのである。
私はもちろん歯茎をあきらめる。