30 August

1999-08-30 lundi

子供さんが帰ってきた。なんだか物静かになっていた。
「ただいま」というなり、そのまま部屋にこもって音楽を聴いている。
「東京はどうだった?」
「いつもとおんなじ」
「みんな、元気だった?」
「うん」
「はんちゃんに会った?」
「ううん」
「じょおには?」
「いなかった」
これではとりつく島がない。
これが困るのね。娘が東京に行っているというのは、要するに「私のエクス・ワイフ」のところにご厄介になっているということなのだけれど、この人がむすめに及ぼす影響を私はあまり歓迎していない。
だっていまから何年か前に娘が突然「どうして離婚したの?」と訊ねたので、私もそのへんは大人だから
「お父さんにもいろいろと悪いところがあったし(本当はないけど、いちおう)、お母さんにも悪いところがあったし、・・・まあ両方の責任だと思うよ」
すると・・・
「へえ、この間、お母さんに聞いたら、全部お父さんが悪いって言ってたよ」
まったく、そういう女だったよ。
そういうひとのもとに3週間も預けて心配ではないか、とご心配するかたもあるかもしれなけれど、私はそうは思わない。じっくりつきあっていただいて、母親の「実相」に触れることが娘には必要だと私は思う。私のような脳天気でシンプルな精神のひとと一緒に暮らしていると人間としての「深み」というものが育ちませんからね。
その娘さんがのそっと部屋から出てきて
「あ、ジミ・ヘンのCD買ったの?」
父さんは60年代から音楽の趣味については一歩も進歩がないひとだからね。この夏買ったのはジミ・ヘンの『ウッドストック』(おいおい)とブライアン・ウィルソンの『だめな僕』(だめなのはあんたでしょ)のふたつだけ。むすめさんはむろんブライアン・ウィルソンには見向きもしない。
「ね、ジミ・ヘン貸して」
「いいよ」
「ね、父さん、ストーンズ持ってる?」
「うん。何枚かあるよ」
「ツェッペリンは?」
「II がそこにあるでしょ」
「ザ・フーは?」
「ベスト盤だけどな」
「なんでも持ってるね」(尊敬のまなざし)
おいおい、どうしちまったんだよ。
そうか、夏の間に東京でバンドやるとかいってたけど、そこでバンド仲間から「ロックの古典」についてのうんちくを聞かされて、「基礎」の大事さを悟ったわけね。
それはよいことだよ。るんちゃん。父さんといっしょに『サマータイム・ブルース』を聴きましょう。