大学進学率の謎

2026-09-22 mardi

 職務上、私大の理事長たちの会議に出席することになった。先行きに不安の多い私大のこれからについて協議するのだという。どうせ文科省の方針を聴かされるだけの退屈な会議だろうと思ってでかけたら、思いがけなく刺激的な発表を聴いた。その一部をご紹介したい。
 18歳人口の急減に伴って大学数を減らせという圧力が政界財界から強まっていることはご案内の通りである。先日財務省が財政制度等審議会に提示した「私立大学250校削減」という報道に肝を潰した大学関係者は多かったと思う。
 2024年の18歳人口が109万人。2040年にはそれが74万人にまで減る。32%の減である。大学進学率60%で計算すると2040年の推定進学者は44万人。2024年の進学者63万人と比べるとたしかに30%減になる。
 大学進学者が30%減るなら、大学定員も30%減らす。計算としては合理的だ。ただ、減らすべきなのは「入学定員」であって、「大学数」ではない。なぜこれが入れ替わるのか、私にはよくわからなかった。
 さらにわからないのは、2040年も大学進学率が今と同じ約60%に固定されていることである。だが、進学率はこのあと間違いなく上がると私は思う。というのは、大学進学率の決定要因は家庭の経済状態よりむしろ親の学歴だからである。両親ともに大卒の場合、子供の大学進学率は95.4%。一方の親だけが大卒の場合で87.9%。
 親の高学歴化はこれからも進むだろう。にもかかわらず、財政審は2040年の大学進学率の予測を変えようとしない。70%台まで進学率が上がる可能性はある。進学率70%になれば、2040年の大学進学者は52万人である。万一進学率が85%になれば(なることはたぶんないと思うが)、大学進学者数は今と変わらない。削減校数はゼロで済むことになる。
 大学人たちにとって「どうやって生き残るか」を思量することも大切だが、それ以上に、日本の子どもたちに向かって、高等教育を受けることがどれほど有意義なことであるかを訴えることの方が大切ではないかと私は思う。学生たちが卒業した後に「大学で学んでよかった」と実感して、生き方を通じて大学で会得した知恵と能力を示すこと。それが大切だと思う。子どもたちのうちに「大学に行って学びたい」という向学心を亢進させること。それがこれからの大学人にとっての最優先の仕事ではないかと私には思われるのである。
 「252校削減」というのは私大を脅しつけて、大学人たちを萎縮させ無力化させるための政治的ブラフではないか。話を聴いてそう思った。
 それでも私大の40%が消滅するだろうと彼らが予測した理由が気になる。
 私の仮説はこうだ。仮に大学進学率が上がっても、それは日本の私大の入学者数には反映しないと彼らは考えたのである。なぜなら、富裕層は子供たちをもう「落ち目」の日本の大学には進ませず、海外の大学に送り込むからである。官僚たちは「自分ならそうする」と思っているので、その願望がおそらくは答申に無意識に反映したのだ。
(AERA9月12日を改稿)