高市首相の狡知

2026-08-30 dimanche

 選挙が終わり、自民党の地滑り的勝利という結果に終わった。比例票を見ると、自民党が2103万票、中道が1044万票。比率はほぼ2対1だが、獲得議席は316対49。6.5対1に差が拡大している。
 小選挙区制では入力のわずかな変化が劇的な出力変化をもたらす。1993年のカナダの総選挙では、多数派だった進歩保守党が169議席から2議席に転落した。進歩保守党の得票率は16%。定数295だから、得票比で配分すれば47議席得てもよかったのである。2024年の英国の総選挙では労働党が650議席中411議席を得る大勝利を収めたが、この時、労働党は33.7%の得票率で全議席の63.2%を得た。
 小選挙区制というのは「そういうもの」である。ただ、ふつうは政権与党に対する不信や倦厭が嵩じて野党議席が実勢よりも嵩上げされて政権交代が促進されるのだが、日本では逆のことが起きた。現状に対する不満が「現状を変えることができない野党への不満」というかたちを採ったである。よく考えるとずいぶん不条理な話である。
 高市首相は選挙演説で日本社会の問題点を次々と列挙して、これらの制度的な不調を放置していては日本に未来がないと獅子吼した。ごもっともではあるが、論理的に無理筋である。今日本が直面している諸問題の多くは久しく政権の座にあった自民党の失政か不作為の結果だからである。われわれの前にあるのは「問題」ではなくて「答え」なのである。
 だが、高市首相は「答え」を「問題」と言い換え、「問題」が生じた理由を「自民党に議席が足りなかったから」だとした。これは天才的な詭弁と言ってよい。久しく自民党は国会の過半数、時には3分の2を占めていたのだが、首相によれば、それでも自民党の理想の実現には足りなかったのである。
 失政の原因を「議席が足りなかったこと」に帰すれば、結論は「さらなる議席を自民党へ」以外にない。この「言い訳」は国会の全議席が自民党で占められるまで続けることができる。そして、それが達成された時には「言い訳」を用意しなければならない相手はもうこの世にいなくなっているのである。
(AERA 2月11日)