政府は国家情報局の創設を計画している。これまでは内閣情報調査室(内調)、公安調査庁、警察庁、外務省、防衛省が情報収集活動を行ってきた。上がってきた情報は内調が総括するはずだが、内調の構成員は200人。公安調査庁の1800人、防衛省の2700人に比べると手薄である。そこで内調を格上げして、情報を一元管理できる体制を作ろうという話である。
どこの国でも情報機関が監視するのは主に自国民である。為政者は外敵の侵攻リスクよりも国内の反体制運動による政権交代リスクの方を重く見る。それは米国でも中国でも変わらない。
中国では久しく治安維持予算が国防予算を上回っていた。それだけ国内の反政府運動のリスクを高く見積もっていたのである。だが、近年、治安維持予算が国防予算よりも少なくなってきた。これはAIを駆使した国民監視システムがほぼ完成して、14億の国民が自分たちのすべての言動は政府に監視されていると信じている「パノプティコン」状態を達成したからである。
パノプティコンはベンサムが考案した監視システムで、監視塔を中心として監獄が円を描くように配列されている。監視塔からは獄舎の中が見えるが、囚人からは監視塔の中が見えない。だから、自分が監視されているのか監視されていないのか、囚人にはわからない。そういう場合、囚人は「監視されている」という前提で行動するので、看守がいなくても、監視システムは機能する。
つまり、情報機関には二つの仕事があることになる。一つは「実際に国民を監視すること」、もう一つは「国民に『自分は監視されている』と信じ込ませること」、この二つである。
政府は国民監視企業パランティアと提携するらしいが、ピーター・ティールが持ってきた商品リストにはたぶん「松・竹・梅」の3ランクがあったのではないかと思う。「松」は「全国民を実際に監視する」。「竹」は「ブラックリストに載っている人間だけを監視する」。「梅」は「全国民を監視していると国民に信じ込ませる」。「梅」でも、「なんで政府は『こんなこと』まで知っているのだ」と驚かせる事例をいくつか示せば効果は十分だろう。
(AERA3月11日)
(2026-03-29 07:39)