先生たちからの質問 その5

2025-11-21 vendredi

 学部学科を選べない、特に関心の高い学問分野がない、という悩みをよく聞きます。調べ方が足りないから見つからないのでは? 時間をかけて徹底的に調べることで少しずつ興味関心の在りかが見えてくるよ、とアドバイスしていますが...。
生徒の行動変容につながるような効果的なアドバイスがあれば、是非ご教示ください。

 こんにちは。「学部学科が選べない」「特に関心の高い学問分野がみつからない」のは高校生だったら当然だと思います。僕も受験生のときに法学部に行こうか文学部に行こうか、最後まで決まりませんでした。法学部に受かったら司法試験受けて法曹になりたい、文学部に受かったら外国文学研究者か新聞記者になりたい...と漠然と考えていましたけれど、これってぜんぜん違う職業じゃないですか。検事になりたいのか『朝日ジャーナル』の記者になりたいのか、本人もわからなかった。でも、それが18歳の現実でしたけれど、僕はそれでいいと思いますよ。
 僕の場合は、実際に仏文研究者というものになったのですが、もし文学部を落ちて、法学部に受かっていたら、たぶん法曹になっていたと思います(六法全書を読むのが好きでしたから)。仏文の大学院で博士課程に進学できていなかったら、たぶん友だちとやっていた翻訳会社(修士のときに起業して、軌道に乗っていました)の新しくできた出版部門を大きくして、出版社の経営者というものになっていた可能性もあります。どの職業に進んでも、そこそこ楽しく、充実した職業人として過ごしたのではないかと思います。そういうものだと思いますよ。
 進学とか就職って、結婚と同じで、「ご縁」のものです。「ご縁」だから、早い段階から「オレはこういう人としか結婚しない」と勝手に条件を固定しておかない方がいい。「あ、いいな」と思う人と会ったら、あまり逡巡しないで、結婚する。そして、どんな人と結婚してもそこそこ幸せになれる。それが「成熟した大人」だと思います。
 「こういう条件をクリアーできた人が配偶者じゃないと、絶対に幸せになれない」なんて思っているのは「子ども」です。そして、「子ども」はどんな条件の人と結婚しても、あまり幸福にはなれません。
 進学や就職もそれと同じだと思います。「ご縁」のものだから、「こういう学科だけは嫌だ、こういう仕事だけはしたくない」というものがあればとりあえず除けておいて、それ以外は「まあ、ご縁があったら、なんでもいいや」くらいのオープンマインデッドな構えでいた方がいいと思います。だって、高校生は、この世に存在する学問分野や職業のほとんどについては、そんなものが存在することさえ知らないんですから。早めに決めておく必要なんかぜんぜんないと思いますよ。