外国人が多いと言うけれど

2025-08-05 mardi

 最近、どこに行っても外国人が増えています。
 僕は定期的に箱根に友人たちと湯治に行くのですが、コロナ禍で「閑古鳥が鳴いていた」時に比べると、たいへんな様変わりで、世界中の観光客でにぎわっています。ホテルのレストランを見渡すと僕たち以外全員外国人ということさえありました。先日、大阪の心斎橋でコンビニに入ったら、飛び交うのは中国語、店員さんも三人全員が流暢に中国語を語る人ばかりでした。外国の街にいるような不思議な気分になりました。
 海外の人がたくさん日本に来るというのは、日本がそれだけ「居心地の良い国」だということだと言ってよいと思います。観光資源が豊かで、ご飯が美味しくて、治安が良くて、物価が安いんですから、言うことありません。最後の「物価が安い」というのだけは、過去30年の日本の経済政策の失敗の帰結なので、あまり喜ぶわけにはゆきませんが、あとは先人たちの長年にわたる努力の成果ですから、これは誇ってよいと思います。
 海外の超富裕層が不動産を買い占めているということについては、かなりヒステリックな報道がなされていますが、これもそこまで目の色を変えて怒るような話でしょうか。
 若いみなさんはご存じないと思いますけど、80年代に円がとても強かった頃(そんな時代があったんです)、日本人は世界中で土地を買い漁っていました。ヨーロッパでシャトーやワイナリーを買い、アメリカで摩天楼をブロックごと買い、オーストラリアのゴールドコーストやスペインのコスタ・デル・ソルに富裕層の老人たちのための豪華な隠居所建てました。昔、日本人が世界各地でしたことを今度は日本がされる側になったわけで、日本人に「こんなのは不当だ」と言う権利はないと僕は思います。
 ただ、このまま外国ルールの人が日本社会に増えてゆくと、いろいろな問題が起きそうです。  今、日本には380万人の外国ルーツの人がいます。総人口の約3%です。2015年が1.5%ですから、この10年間で二倍になった。生産年齢人口(15―64歳)が急減しつつある日本では、第一次産業も、製造業も、サービス業も外国からの労働者を受け入れてゆかないと維持できないというのが実情です。ですから、このあと遠からず5%になり、10%になると思われます。
今、外国ルーツの人がアメリカで14%、フランスで11%、ドイツが30%です。どこでも移民排斥を掲げる排外主義が公然と語られています。そして、ご存じの通り、日本でも外国人排斥の動きが始まっています。
 この排外主義者たちは別に本気で「外国人がいるせいで祖国が滅びかけている」なんて思っているわけではないと思います(思っているとしたら、相当知性に問題があります)。でも、「日本社会が不調なのは、すべて外国人のせいだ」という排外主義を掲げると、その単純な社会観に共鳴する人たちが集まってきて、憎悪と恐怖を「てこ」にして大きな政治的勢力を形成できるということは知っている。ですから、何よりも「力が欲しい」と思っている人たちにしてみたら、外国人増加は自分を大きく見せるためには絶好の機会なのです。
 移民増加に伴う排外主義に適切に対処できた例は過去にほとんどありません。それだけの市民的成熟に達することはどこの国民にとってもたいへんに困難だということです。それでも、できるだけ多くの人が「大人になる」こと以外に排外主義を克服する道はありません。大人になってください。(蛍雪時代8月号 7月26日)