年初に浪曲師の玉川奈々福さんを凱風館にお招きして、新作二番をご披露頂いた。翌週には安聖民さんと趙倫子さんのパンソリ古典を拝聴した。暮れには落語の桂二葉さんの四回目の独演会を開いた。一月余りの間に、三人の女性芸能者にお越し頂いたことになる。
合気道の朝稽古は6時半始まりなので、門人たちはこの季節だとまだ空に月が出ている時間に家を出て道場に来る。今朝は数えてみたら6割が女性だった。凱風館の塾頭は神戸女学院大学合気道部の16代主将であり、私が引退したあとは彼女が師範を引き継ぐ。どうやらこと芸能と武道に関しては、伝統を継承してくれるのは女性たちのようである。
これは私の身の回りだけの特殊な出来事ではない。時々お訪ねする羽黒山の星野文紘先達のところでは、修行している山伏たちも近年は過半が若い女性である。みなさんはご存じないと思うが、日本の修験道はいま女性山伏によって継承されているのである。なんと。
伝統的な芸能、武道、宗教に女性たちが引き寄せられ、消えかけた伝統を賦活させようとしていることを一人の伝統継承者として私はとてもありがたく思っている。でも、この現象について、メディアはまず伝えることがないし、学術研究があることも知らない。この現象はまだ水面下にひそんでいて、徴候化するのはもう少し先のことになるのだろう。
現代社会で、男たちは権力や財貨や威信を争奪し合う競争で心身をすり減らしている。一方、競争に背を向けて、修行の道を選ぶ女性が増えてきている。その理由が私にはわかる気がする。
修行は相対的な優劣を競わない。ただ、師の後を追って終わりのない道を歩むだけである。修行には査定も評価もない。格付けに基づく権力や財貨の傾斜配分もない。
だから、人間的成熟をめざす女性たちが競争を捨てて修行の道に入ることは現代日本社会の霊的な空虚さに対する強烈な批判を意味するように私には思えるのである。
競争をすることを止めた女性たちがすでに非競争的な領域ではリーダーシップを執っている。「日本の再生」が始まるとしたら、それらのセクターからだろう。
(2025-01-23 16:38)