テレビドラマに見るなりたい職業

2024-12-19 jeudi

 先日テレビ局の人と「オールドメディアが力を失った」という話をしているうちに、そういえば新聞記者やテレビのディレクターを主人公にしたテレビドラマがないねという話になった。
 最近のテレビドラマの主人公はどんな職業人なのか調べてみたら、一位警察官、二位会社員、三位医療人、四位教師、五位探偵、六位弁護士、七位編集者、八位作家、九位料理人、十位銀行員だそうである。なるほど。メディア関係者では七位に編集者が入っているけれども、新聞記者もテレビ関係者もランキングには入っていない。
 私が子どもの頃、NHKが『事件記者』というドラマを58年から66年まで放送していた。私も毎週食い入るように見ていた。だから、当時の子どもたちの「なりたい職業」の第一位は圧倒的に新聞記者であった。60年から61年にかけては丹波哲郎主演の『トップ屋』というドラマがあった。フリーランスの雑誌記者が政財界の暗部を暴露してゆくというドラマで、当時の週刊誌の反骨性が知れた。
 私の記憶している最後の新聞記者ドラマは水谷豊が主演したシリーズで、1983年から2005年まで彼は役名を替えながら22年にわたって型破りの新聞記者を演じた。
 テレビドラマの主人公は「硬直した制度を人としての情理で打ち破る型破りの人物」でなければならない。これは『踊る大捜査線』の織田裕二も、『HERO』の木村拓哉も『イチケイのカラス』の竹野内豊もみな設定は同じだった。「人としての、等身大の情理を以て、硬直した惰性的なシステムに敢然と立ち向かう」ことが主人公の条件なのである。だから、ジャーナリストを主人公にしたドラマが急減したというのはかなり深刻な事態だということになる。 
 東京新聞の望月衣塑子さん原作の『新聞記者』は映画とドラマが制作されたし、テレビディレクターを主人公にしたドラマ『エルピス』も秀逸だった。でも、どちらも鋭く業界の問題を剔抉してはいたが、ドラマを観た子どもたちは「この業界にぜひ行きたい」とは思わなかっただろう。メディア業界はもう「型破りの個人」が一人で補正できる限度を超えて劣化した。多くの人はドラマを観てそれを確認したのだと思う。
(AERA、12月4日)