トランプ次期大統領はイーロン・マスクとヴィヴェック・ラマスワミという二人の民間人を「政府効率化省」のトップに起用して、連邦政府の効率化と構造改革を推進すると発表した。指名にあたり、これは「官僚機構を解体し、過剰な規制を廃し、無駄を削る」「現代のマンハッタン計画」だという危い比喩を用いた。さしあたり教育省、FBI、IRS(内国歳入庁)を解体し、政府全体で職員75%を解雇するらしい。
続いてトゥルシ・ギャバード下院議員を国家情報長官に、マット・ゲーツ下院議員を司法長官に、FOXニュースの司会者ピート・ヘグゼス少佐を国防長官に、ロバート・ケネディ・ジュニアを厚生長官に指名した。
ギャバ―ド議員はロシア寄りの発言を繰り返しており、ゲーツ議員は淫行疑惑で下院の調査を受けており、ヘグゼス氏は米軍の上級将軍たちを攻撃してきたし、ケネディ・ジュニアは有名な反ワクチン論者である。
徴候的な人事である。金儲けに卓越したビジネスマンに行政改革を委ね、「ロシアのエージェント」と言われる人物を情報部門のトップに、遵法意識の希薄な人物を司法長官に、政治経験も行政経験も軍功もない一少佐を130万人米軍の指揮官に、反ワクチン論者を医療行政のトップに据えたのである。
選挙中からトランプは当選したら「リベンジ」を果たすと約束していたが、これがその始まりである。ワシントンのエリートたちを叩き出すために、「ふつうなら決して軍や情報機関の上層に達するはずのない素人」を主要機関のトップに据えたのである。まあ、「いやがらせ」である。
米国の場合は連邦政府の高官を勤めた人が民間に転出してシンクタンクや大学で働き、声がかかるとまた政府中枢に戻る「回転ドア」と呼ばれるキャリアパスがある。おそらく解雇されるより先に多くの連邦上級職員たちは民間に転出して、次の政府からの召集を待つ道を選択するだろう。
この人材流出の後に連邦政府は正常に機能するだろうか。米国の復元力は強靭であるから、いずれ何とかなるとは思うが、移行期的混乱のさなかに「何か」が起きた場合には連邦政府は対処できないかも知れない。(11月20日)
(2024-11-25 09:54)