『スターウォーズ』と『姿三四郎』

2022-12-29 jeudi

 若い人から時々「人生相談」メールが送られてくる。時間の許す限り回答するようにしている。
 先日、映画『スターウォーズ』と仏教思想の関係を自由研究の課題にしているという大学一年生からのお訊ねが届いた。『スターウォーズ』における師弟関係は日本の武道の師弟関係と通じるものだろうかという質問だった。私はこうお答えした。
 ご存じだと思いますが、ジョージ・ルーカスは黒澤明の大ファンで、黒澤へのオマージュが随所にちりばめられています。『スターウォーズ』における中心的な師弟関係はルーク・スカイウォーカーとヨーダ、オビ=ワン・ケノービとアナキン・スカイウォーカーの二組です。おそらく元ネタは黒澤の『姿三四郎』です。矢野正五郎と姿三四郎の関係がルークとヨーダに、村井半助と檜垣源之助の関係がアナキンとオビ=ワンに投影されていると思います。
 檜垣は「村井は師とするに足りない。もう師匠から学ぶものはない」と思っているのに対して、三四郎は「矢野先生は卓越しており、自分が一生かけても師の域には及ばない」と思っている。これが二人の決定的な違いです。
 檜垣の自己評価はたぶん正確です。ほんとうに彼は強い。でも、そのせいで成長をめざす意欲に微妙な抑制がかかります。一方の三四郎は、師が「無限に強い」と思っているので、努力に限界がありません。どこまで強くなったらいいのか、わからない。結果的にこの開放性の差ゆえに、実力では上の檜垣に三四郎が勝ってしまう。
「師を決して届かない境位にあるものとして仰ぎ見る弟子は、師の実力を正確に見極めることができる弟子よりも『のびしろ』において勝る」というのが師弟関係についての日本の伝統的な考え方です。ジョージ・ルーカスはこれに共感したのではないかと思います。
 そう返信したが、実は質問を読んでその場で思いついたのである。
(2022年3月25日)