みなさん、こんにちは。内田樹です。
2020年度の寺子屋ゼミの受講要項をお送りします。
とはいいながら、コロナウィルスの感染終息の先が見えないので、果たして今期の開講がいつになるのか見当がつきません。場合によると、前期はまるまる休講ということになるかも知れませんけど・・・。
さて、すでに告知しておりました通り、2020年度の前期のテーマは「中国」です。
今回のコロナ禍への対処では中国とアメリカが対照的でしたね。
中国は、最初は感染リスクを過小評価し、情報隠蔽など初動で悪手を打ちましたが、途中から都市封鎖、「一夜城」的病院建設、医療資源の集中的投下などで、感染拡大を抑え込みました。これは中国のような強権的な国家でしかできないことで、「私権の制限できて羨ましい」と感じた人もきっと世界中にはいたはずです。
その後、中国は人工呼吸器、防護服、マスクなどの製造拠点であることの利を生かして、いち早く医療支援国になりました。イタリアが医療崩壊で苦しんでいた時、EUは手を差し伸べませんでしたが、中国は医療支援を申し出て、これでイタリア人の対中国感情は一気にプラスに振れました。中国はこの「成功体験」を踏まえて、これから「医療支援カード」を最大限外交的に活用してくるだろうと思います。アメリカが感染の止まらない拡大と「アメリカファースト」と大統領選で、国際社会への医療支援の余力がないのに対して、中国の方がこの領域ではあきらかにアドバンテージがあります。
興味深いのは「ワクチンと治療薬の開発」です(これは兪先生からの請け売りです)。
いま、世界でコロナウィルスのワクチンと治療薬を開発できる科学力を持っているのは、アメリカとEUと中国だけです(残念ながら日本には誰も期待していません)。
アメリカが開発した場合、アメリカは自国民の次にはカナダ、メキシコという三国協定加盟国に配布して、あとはできるだけ高値で売りつけようとするでしょう。EUが開発した場合は、自分たちの次には移民労働者の送り出し国に優先的にワクチンを配布する(しておかないと、移民流入で第二波、第三波が来てしまいますから)。だから、マグレブとトルコですね。EU開発のワクチンが日本に回ってくるのはずいぶん後回しになるはず(というのが兪先生の予測でした)。
さて、中国がワクチンを開発した場合はどうなるか。この場合は、日本にはかなり早く来ると僕は思います。たぶん、それも「友だち価格」で。両国民の行き来が盛んですから、日本を「安全」にしておかないと中国も困るからですが、それだけではありません・・・
これを機に中国は一気に70年代の日中共同声明時点のような「日中の蜜月」を再構築しようとするのではないか、と僕は予測しております。
トランプのアメリカが日本を「搾れるだけ搾れる植民地」とみなしていることが日々明らかになる中で、中国が日本を「たいせつな友邦」として遇してくれたら、日本人はどう対応するでしょう?
僕は習近平は、ポストコロナ期の東アジアで、日本を取り込んで、アメリカから心理的に離反させ、あわせて韓国・台湾との「東アジア共同体」構想の真ん中に地政学的なくさびを打ち込む・・・という戦略で来るんじゃないかと思っています。つまり、日本を「経済的属国」にするというプランです。
日本は東アジアの中で最も「属国慣れ」している国ですから、宗主国がアメリカから中国に代わっても、あまり体制に変化がない。
そのためにまず中国は自民党の派閥を一つ札束を積み上げて「買い」に来る。自民党の中に「親中派」ケルンを形成する。そして、「中国が開発したワクチンを日本に優先的に配給するように話をつけたのはオレだ」という「手柄」をその自民党の派閥の長にプレゼントする。これは使いでのあるカードです。「救国の英雄」のタイトルを手に入れられるんですから。当然、次の自民党総裁選で有力候補になる。そうやって、「中国に借りがある」政治家を日本のトップに据える・・・ まあ、戦後アメリカが岸や賀屋に対してやったことと同じなんですけどね。そういうことが展開するのではないかと、僕は目を凝らして観察しているわけです。
というわけで、コロナ禍の渦中における中国の動きはたいへんに興味深いものがあります。ここでどういう手を打つかで、ポストコロナ期の世界の地政学的布置が書き換えられるからです。その場合のキープレイヤーは中国です。刮目して観察する必要がある。
というわけで、みなさん今期は中国です。
いつもように、どんな角度から、どんな素材を扱って、どんな方法によってでも結構です。みなさんの自由研究の発表を総合しているうちに、中国の全貌がゆっくり浮かび上がってくる・・・そういう発表を楽しみにしております。
ZOOMでの開講になる可能性もありますが、そのときはまたいろいろとお手間をおかけしますけれど、どうぞよろしくお願い致します。
(2020-04-17 12:12)