東京五輪をめぐるスキャンダルをようやく大手メディアも報道し始めた。
私は招致決定以来ずっと「東京五輪招致反対」を言い続けて来た。
その理由について述べたものを再録する。
最初は2016年にAERAに書いたもの。次は去年の夏に『GQ』に書いたもの。
東京五輪を巡って恥ずかしいニュースが続けて報道されている。ケチのつき始めはザハ・ハディド設計の新国立競技場計画の撤回だった。その後もエンブレム盗作疑惑、再コンペをめぐるトラブル、神宮球場の使用中止問題、聖火台の設計漏れ、当初予算を大幅に超える見通し、先日からは開催市の知事の公私混同疑惑〔舛添要一都知事による政治資金の私的流用〕と続いた。
そして揚げ句にここにきて英紙「ガーディアン」が、日本の招致委員会が前国際陸連会長の息子の関連会社に2億2300万円の「コンサルタント料」を支払っていたことを報じた。
ラミーヌ・ディアク前国際陸連会長は、ロシアのアスリートのドーピングもみ消しに関与して賄賂を受け取った疑いでフランスの司法当局の捜査対象になっている人物であり、息子のほうは既に国際陸連から永久追放処分を受けている。
東京の招致委員会が送金したシンガポールの口座はこのドーピングもみ消しにまつわる金の出入りに使われたものであったことが明らかになった。誰が考えても、この金は招致のための「水面下のロビー活動」(平たく言えば、委員の買収)の原資とエージェントへの報酬である。いずれヨーロッパの関連国の司法当局やメディアが「東京五輪はどうやって買われたか」についての真相を明らかにするだろう。
私は東京への五輪招致が決まった時から「経済効果と国威発揚しか頭にないような人々が主催する五輪なら、するだけ日本の恥になる」と言い続けてきた。そして実際にその通りになった。
何より問題なのは、これを報道したのが英紙であり、疑惑解明を主導しているのが仏の司法当局だということである。日本のメディアも司法当局も疑惑の解明の主体ではない。それは、日本は自国のシステム不全を自力では補正できない国だということを国際社会に明らかにしたということである。
IOC倫理規定は、五輪開催に関連して、いかなる性質のものであれ「秘密の報酬、手数料、手当、サービス」の提供を禁じている。違反した場合には開催取り消しもありうる。日本がこのまま真相解明を怠るなら、国際世論が五輪返上を迫ってくる可能性はもうゼロではない。(2016年5月30日)
次は『GQ』。こちらはQ&A形式で、編集者が集めて来た質問に私が答えている。
Q:東京近郊で家を買おうか迷っています。でも、いまは住宅バブルで、東京オリンピックが終わったら暴落するという説もあるし、そもそも日本は毎年30万人も人口が減っていくのだから、もう少し待ったほうがいいようにも思います。その一方、労働力不足のためマンションの建築費が上がっているから、オリンピックが終わっても絶対に下がらない、という説もあるみたいです。いまなら超低金利だし、消費税が来年10月には10%になる(かもしれない)し、買うならいま、とも思うのです。
最初に確認しておきますけれど、人口減のペースはもっとすごいですよ。
内閣府の出してるデータでも2100年の中位推計が5000万人。今が1億2千700万人ですから、あと82年で7700万人減る勘定です。年間90万人。それだけ人が減るわけですから、この先住宅需要が高まるということはまずありえません。
でも、国民経済的視点からは、それでも家を買ってもらった方がありがたいんです。景気って「気のもの」ですからね。これからも住宅需要は堅調だとみんなが思い込んで、ローン組んでどしどし家を買ってくれれば、景気はよくなります。逆に、将来何が起こるかわからないからお金を貯め込んでおこうと思うと、消費意欲は冷え込み、市場は縮減して、ますます景気は悪くなる。ですから、とりあえず国民経済のためには明日のことを考えずに家買ってください。
というのは一般論で、友だちから「家買おうと思うんだけど」と相談されたら、「今は買うな」とアドバイスします。だって、いつ住宅価格が急落するか予測不能なんですから。
不動産関係の人に聞くと、物件数はすでに圧倒的に供給過剰だそうです。実需要がないのに、新築マンションがどんどん建てられている。だから、そういうところには人が住んでないんです。値上がりを見込んでの投機だから。バブル期と同じです。供給が需要を超えてるんだから、どこかで価格が暴落するのは当然です。でも、その前に最高値で売り抜ければ資産運用としては成功。
だから、これは「チキンレース」なんです。ただし、このレースには崖がない。もうとっくに崖を超えて、下に地面がないところを走っているのです。それがわかっていながら、地面があるような顔をして走り続けられる人の中の誰かが勝ち逃げする。スリルが大好きという人はやってもいいと思いますよ。でも、「終の住処」を探すつもりなら、今は買う時期じゃない。
五輪が終わるまでは待った方がいいかどうかというご質問でしたけれど、実は東京五輪が果たして開催されるかどうか、僕はけっこう不透明だと思います。
国際陸上競技連盟(IAAF)の前会長で、IOC委員のラミーヌ・ディアックとその息子は世界陸上と五輪を食い物にして、私腹を肥やしてきた容疑でフランスとブラジルの司法当局に追われて逃亡中ですけれど、この二人は東京五輪招致に深くかかわっています。電通の仲介で、シンガポールのダミー企業に日本の招致委員会から2億3000万円が払い込まれたことがありましたね。あの金はディアクの息子の口座に転送されていたのです。去年の9月に『ガーディアン』が報じました。ブラジルの司法当局はこの支払いがIOC内部に強い影響力を持つラミーヌ・ディアクを介して票を買収し、2020年東京五輪の招致を実現するためになされたという結論を出しました。
これは明らかに憲章違反です。捜査が進み、招致のために票を買収した証拠が揃ったら、規定に従って東京五輪は開催中止です。憲章違反による開催取り消しは、開催前日でも行えますし、中止によって生じる損害に対してIOCは一切責任を負わないことも憲章には明記されています。
メディアは報じませんけれど、東京五輪は開催中止リスクを抱えたまま進行しているプロジェクトなんです。でも、そんなことは考えたくないから、みんな黙っている。今の日本のシステムの腐敗と機能不全を見ると、ある日「東京五輪開催中止」が通告されて、関係者全員白目を剥いて腰を抜かして収拾がつかなくなる・・・という事態を迎える可能性は少なくないと僕は思っています。
(2019-03-20 07:46)