アメリカの対日世論はしだいに疑惑と不信の論調に傾きつつある。
New York Times の昨日の記事「安倍氏の危険な歴史修正主義」を訳してみた。
安倍首相の「真意」を記者が読み切れないのは、つねづね申し上げているとおり、「対米従属を通じての、対米自立」という自民党の伝統的な戦略の「意味」と、それを支える「心性」がアメリカ人には理解しにくいものだからである。
記事は首相の真意を「hard to decipher」と評しているが、decipher というのは「意味不明の言葉・暗号・古文書などを解読する」というかなり特異な含意の動詞である。
首相の対米姿勢は友好的なのか対立的なのか、よくわからないという先方の当惑がよく伝わってくる記事である。
なにより「does not want to be dragged into a conflict between China and Japan」(アメリカは「日中間の紛争に巻き込まれたくない」)というのは私が知る限りこれまでアメリカのメディアでここまではっきり書かれたことのない文言である。
そこまでアメリカは「日中間の紛争」の可能性について真剣に危惧し始めている。
(訳はここから)
安倍晋三首相のナショナリズムの旗印は今や日米関係に対するかつてなく深刻な脅威となりつつある。彼の拠る歴史修正主義的立場は、東シナ海、南シナ海における中国の攻撃的な態度によって混迷を深めているこの地域で、危険な挑発と見なされている。
しかし、安倍氏はこの現実を一向に気にとめる様子がなく、条約上の責務によって日本防衛を約束しつつ、日中間のトラブルに巻き込まれることを望んでいないアメリカの国益に対しても配慮する様子が見られない。
安倍氏のナショナリズムは理解が困難である。というのは、それはどの国に対して向けられたものでもなく、彼自身恥ずべきものとみなしている日本そのものの戦後史に向けらたナショナリズムだからである。「戦後レジーム」と彼が呼ぶところの体制の廃棄と、新たな愛国主義の創出を安倍氏はめざしている。
問題は彼が日本の戦後文化に手を着けるより先に、戦争の歴史を改竄している点にある。彼とナショナリストたちはいまだに1937年の日本軍による南京虐殺はなかったと主張している。彼の政府は金曜日に、日本軍によって性的奴隷労働を強制された韓国女性たちに対する謝罪を再検討し、場合によっては廃棄すると述べた。
そして、安倍氏は戦争犯罪人を含む戦死者を慰霊する靖国神社参拝の意図を祖国のため命を犠牲にした人々に対する敬意を表するためだけのものであると説明している。ワシントンからの参拝を自制して欲しいという明瞭なシグナルにもかかわらず、安倍氏は12月に神社を参拝した。
中国との対立的な関係が生じたため、平和主義的な日本国民の間でも国防力強化の必要性を説く安倍氏の主張は説得力を持ちつつある。軍事力の強化を求める人々がしばしば歴史修正主義と重複するのが日本の特徴である。しかし、安倍氏のナショナリズムは別にして、今のところは彼も他の日本のメインストリームの指導者の誰も日本の軍事力をアメリカの同意抜きに増強しようとする動きは示していない。彼ら自身が日米の安全保障同盟に深くコミットしているためである。
(2014-03-03 14:09)